霾单
解説と補足
今や中国環境汚染の代名詞と化した大気汚染スモッグ。PM2.5という専門用語も世に広く知られるようになった。日本にも飛来するということで、日本のマスメディアでもよく取り上げられるため、北京在住の筆者が日本人と話すと必ず話題に上るテーマとなっている。
中国でPM2.5という用語が注目されるようになったのは、2013年1月に発生した深刻な大気汚染を契機とする。長く中国ではPM2.5より顆粒が大きいPM10の濃度を公表してきたが、より人体に悪影響を及ぼすと言われるPM2.5については非公開だった。天気予報で流されるPM10の濃度は「良」が並び、年々大気の状況が改善されている、というような発表がなされていたが、一方でアメリカ大使館が独自に計測していたPM2.5の値は、「大本営発表」とは一線を画するものだった。
PM2.5という言葉が注目され始めたのは2011年にアメリカ大使館がTwitterで流した“crazy bad”というつぶやきに遡る。それまで大気の状態を“bad”“bad”と流し続けていたアメリカ大使館のTwitterが、ある日“crazy bad”とつぶやいたのだ。ネット・リテラシーが高く、外部からはグレートファイアーウォールと呼ばれている中国政府の検閲の壁を乗り越えてTwitterを利用している中国人がこれに強く反応し、中国政府発表との落差に気づき始めたのだ。
これ対して中国政府は「内政干渉である」と非難の声を上げたが、アメリカ大使館はTwitterで計測結果を流し続けた。海外からの干渉を嫌う者が多い愛国教育世代も、大気汚染は自身の健康に直結するということで、批判は政府へと向いた。
中国政府はああでもないこうでもないと批判から逃げ続けたが、最終的には世論の圧力に屈し、全国的にPM2.5の計測を行うことを決定。当時国務院総理(首相相当)であった温家宝が退任の「置き土産」としてPM2.5の公表開始時期を繰り上げ、2012年の暮れからPM2.5の計測結果の公表を始めた。
その矢先に発生したのが上述の大気汚染である。一部の計測地点では計測器が振り切れ、計測不能に陥る“爆表”現象が発生、PM2.5は一躍時の言葉となった。
この結果人気が沸騰したのが大気汚染対策商品である。空気清浄機は飛ぶように売れ、PM2.5を濾過できるマスクは品切れとなった。特に日系メーカーの空気清浄機は大人気で、2012年秋に発生した日本製品ボイコットの機運は跡形もなく吹き飛んでしまった。
“霾单”はこのような大気汚染対策商品の購入費のことをいう。いわゆる「お勘定」の意味となる“买单”と同音になるところから、これをもじって生まれた表現だ。