刑不上常委

中国語新語

刑不上常委(xíng bù shàng chángwěi

日本語訳

刑は常務委員に上らず(※解説参照)

単語

周永康-394x328

解説と補足

去る7月29日に前中央政治局常務委員の周永康が「重大な規律違反」で立件された。胡錦濤前政権時代のトップ9の一人で、中国政界の頂上に位置する者の立件は25年以来となり、中国政界に激震が走った。

中国の政治システムは西側のそれと全く異なるためわかりづらいが、簡単に説明すると、一党独裁政権である中国共産党の最高指導部は205人からなる中央委員会だが、実際に業務を執行するのは中央委員会の中で選出された25人からなる中央政治局である。その上で、さらにその上位機関として、7人(胡錦濤時代は9人)からなる党中央政治局常務委員会が存在する。この7人の中から共産党総書記や国務院総理(日本の内閣総理大臣に相当)、全人代委員長などのトップが選出され、強大な権力を一手に握っている。ここが中国政界の頂点となる。

周永康は常務委員会では政法(公安系)担当だったが、元々は石油系の出身で、石油閥の頭領であった。その後国土資源部のトップを務めるなど、基本的にエネルギー系のキャリアを歩いてきたためもあってか、今回の一件で差し押さえられた資産は本人と親族、部下の資産を合わせて、少なくとも900億元(1.45兆円!)に上るとされる。また、周永康は「百鶏王」とあだ名されるほど精力絶倫で、部下からCCTVの美人アナウンサーやキャスターを献上されていたというゴシップまで流れているが、事件のあらましは日本でも大きく報じられているので、ここでは詳述しない。ここではこの事件の中で時の言葉となった“刑不上常委”を紹介したいと思う。

この言葉は“刑不上大夫”をもじったものだ。“大夫”とは医者を意味する“dàifu”ではなく、古代の官職名である“dàfū”である。先秦時代(秦の中国統一以前)は領地を持つ世襲貴族を指したが、帝政時代には官職名となった。“刑不上大夫”は文字通り「“大夫”には刑罰が及ばない」という、貴族や官僚の特権をいう表現だ。

もっとも、貴族や官僚ならば無条件で刑事罰を免れるのか、というと必ずしもそういう訳ではなく、「刑事罰は課さないけど、責任を取って名誉ある自害をしてね」とか、「名誉のため公開刑は課さないけど、誰も居ないところでこっそり暗殺しますから」とか、「皇帝の許可なしには拷問はしません」という話でしかない。ただ、一般的にはお偉い様の特権として、文字通りの意味で認識されている。

“刑不上常委”も文字通り、“常委”(引退者も含む)には刑法は及ばない、という特権を表すものだ。このような規定はもちろん法律に明記されているわけではなく、あくまで不文律である。かの鄧小平が最高指導部の安定のために設定したとも言われているが、当たり前だが中国政府はその存在を否定している。

とはいうものの、周永康立件まで2年近くかけて、外堀を埋めていくかのごとく周到に周永康系の人脈を摘発し続けたことを考えると、やはりこの不文律には相当な重みがあったのだろう。

なにしろ中国政官界の汚職は末端まで深く浸透している。例えば前政権で総理を務めた温家宝も、その一族が莫大な資産を保有していることを英フィナンシャル・タイムズ紙などに暴露されている。そもそも習近平一族も莫大な資産を抱えていることを暴露されているのだ。このような現状の中、汚職追放運動は今後どのように展開するのだろうか。