中国の「第二世代」

改革開放から30年余り。今、中国社会の主軸が「第二世代」へと移行しつつある。「第二世代」とは改革開放後に生まれた世代を指し、苛烈な政治運動に遭遇し、改革開放の荒波に揉まれた改革開放「第一世代」を親に持つ。

固定的且つ差別的な社会制度の中で生まれ育ったため、親が所属する階級の影響を強く受けており、それぞれ特徴的な社会的階級を形成している。その階級や特徴を表す漢字に“二代”を付けて呼び表す表現がネットを中心に流行している。

ここでは、これら「第二世代」を簡単にまとめて紹介してみたいと思う。なお、中には“~二代”という表現をモジって、社会的階級とは関係のない、一定の特徴を持つ層を指すものもあるが、合わせて紹介する。

目次

独二代

一人っ子世代の子女。1980年に始まった、俗に言う「一人っ子政策」の中で生まれ育った一人っ子たちを親に持つ世代を指す。

物質的には先代、先々代とは比べ物にならないほど高い環境に生まれ、また幼い頃より高いレベルの教育を受けているので、知能レベルは両親の世代より高い。

一方「4+2+1」の家族構成の中で、両親と祖父母6人の愛を一身に受けて育つため、往々にして甘やかされてしまい、ワガママになったり、社交能力に欠けるなどの欠点を抱えている場合が多い。

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富二代

企業家に代表される富裕層の子女。経済的に豊かな環境の中で育つ。高い教育を受け、親の事業を継承発展させるケースもあるが、甘やかされて育ち、親の事業を破綻させてしまうケースも多い。どうしょうもないドラ息子が親の経済力に物を言わせてハメを外し、事件を引き起こして社会的な笑い物になるケースも散見される。

富裕層の底辺クラスでは中流階級へ落ちていくケースも多い。亜種として“微富二代”なるプチブルジョアな二代目も存在する。

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创二代/新二代

“富二代”と同じく企業家の子女だが、“富二代”が貶義であるのに対して、“创二代”と“新二代”より積極的に評価される。“创二代”は親の事業を継ぐことなく、己の実力で新しい事業を興す者のことを指す。“新二代”は“创二代”の定義に加え、親の事業を継ぐ者も含めるが、公益事業に積極的に参加するなど、社会貢献意識が高いのが特徴である。

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官二代/权二代

地方政府を含む政府官僚の子弟のこと。中国は行政権が強大で、官僚の権力が非常に大きい。このため、“官二代”を“权二代”と呼ぶこともある。

親のコネが強いので、その進路は広い。役人の道を歩む者、大企業に入る者、留学して海外で就職する者など、先天的に一般庶民の子弟とはまったく異なる人生を歩むことができる。

ただ、“富二代”と同様にドラ息子化するケースも少なくなく、親の権力を傘に事件事故を引き起こす不届き者も後を絶たない。

もっとも有名なケースは河北省の省都石家荘市で公安局幹部の息子が起こした交通事故で、「訴えられるものなら訴えてみろ、俺の親父は李剛だ。」と言い放った李剛事件である。あまりにも絵になるストーリーだったので、当時大きな話題となった。

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贫二代/穷二代

いずれも貧困層の子弟を指す。多くの場合、貧困地区の貧農の子女のことをいう。中国は社会資源の分配がいびつな形になっており、貧困地区の社会福利レベルは極めて低く、また教育資源も非常に低いレベルにあるため、貧農の子女として生まれると、大半の場合最底辺にとどめ置かれることになる。

中国では国民の移転の自由が制限されているため、豊かな地域への移転もままならない。このような制度に対する批判は強いが、都市戸籍が既得権益化しており、制度改革の歩みは非常に遅い。

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拼二代

“官二代”や“富二代”のように権力や経済力がある家庭に育った訳ではなく、また“贫二代/穷二代”のように教育の機会すらまともになかった訳でもない、中間層の出身者が大半を占める。

親の経済力や人脈に頼ることができず、自力で道を切り開くことしか術がないため、“拼二代”と称される。“拼”は「一生懸命にやる/命がけでやる/必死になる」の意で、“贫二代”の“贫”の諧音(発音が同じか近いこと)でもある。これは“贫二代”が底辺からの脱却を試みる場合、“拼二代”にならざるを得ないことにもかかっている。

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农二代

農家の子女。一般的に農村部は都市部より貧しく、社会資源や教育資源に乏しい。一代目の多くは改革開放後農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者となり、都市部に出稼ぎに出たが、戸籍制限のため、都市市民に成ることができなかった。このため、心ある一代目は二代目の教育に力を入れ、厳しい受験戦争に勝ち抜くことで大学生となり、都市市民への道を進ませた。晴れて都市部に進出した农二代は“拼二代”となり、奮闘を始めることになる。

受験戦争に敗れた者の多くは、一代目と同様に出稼ぎ労働者として都市に出ることになる。もっとも、改革開放の中で生まれ育った第二世代は第一世代とは異なり、稼いだカネを送金せず娯楽など自分のために消費したり、給料の多寡よりも仕事内容を選ぶ傾向が強い。このような傾向は年を追うごとに強くなっており、無尽蔵と思われた中国の労働市場に大きなインパクトを与えている。

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民二代

中国語で出稼ぎ労働者のことを“民工”というところから、出稼ぎ労働者の子女を指して“民二代”という。親と共に都市部で育つ場合と、祖父母や親戚に預けられて田舎で育つ場合の二通りがある。

前者の場合でも、就学年齢になると田舎に戻って学校に通うケースが多い。都市圏では、戸籍がない出稼ぎ労働者の子女は公立学校に入学する資格がなく、入学に際して多額の寄付金を要求される。出稼ぎ労働者向けの非正規学校もあるが、環境は劣悪で、教学レベルも低い。また出身地と異なる省の都市部で高校まで通っても、その都市で大学入試を受けることができないため、小学校までは都市部に残っても、中学以降は実家で就学するというケースが多い。

後者の場合は適切な家庭教育を受けることができず、親の愛情を受けることなく幼少期を過ごし、心理的な問題を抱えてしまうケースも目立つ。このようなこどもたちを指して“留守儿童”という。この現象は犯罪者の温床となっており、深刻な問題となっている。

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民工 留守儿童

拆二代

土地成金の子女。中国は土地の所有権は存在しないが、旧式住宅接収の際、住民に補償金が支払われる。この補償金が不動産価格の急騰を受け高額化しており、金銭崇拝が蔓延るバブリーな社会環境の中にあって、一夜にして巨額の富を得た低所得者が、人生を狂わせてしまうようなケースが続出している。

また、巨額の補償金が家族間の軋轢を生み、親兄弟同士で訴訟合戦に発展するなど、バブル期特有の社会問題も発生している。

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房二代

不動産バブルの中、格差社会の象徴的存在となっているのが不動産である。不動産価格は、標準的労働者の収入では自力で購入するのが不可能な域に達しているのだが、一方で不動産が結婚の前提条件として男性側が準備しなければならないものとされるなど、購入しないわけにはいかない社会的気風が強く、若年層の不満が集中している。

一方で、富裕層が未成年の子弟のために前もって不動産を購入するケースが増えている。“房二代”はそんな不動産持ちの未成年世代を指す。

“房二代”が一躍脚光を浴びたのは、2歳の女の子が高級住宅を所有しているというニュースが流れたことによる。おまけに、驚くべきことにこの家族は純粋なサラリーマン家庭。もっとも、勤め先は銀行や電力・ガスなどの国有独占企業で、長く批判されてきている独占企業職員の高給問題も絡み、より注目を集めることとなった。

格差社会の新たな象徴的存在として注目を集める“房二代”。相続税や贈与税が不整備であることもあり、対策が求められている。

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星二代/歌二代/名二代

有名芸能人の子女。親の七光りよろしく圧倒的に優位な立場で芸能生活を始めることができる。衆目を集めることが商売な芸能界において、このアドバンテージは非常に大きいが、その分社会的な注目度も高く、格差社会の象徴として負の側面が強調されることもある。“歌二代”は特に歌手の子女を、“名二代”は広く有名人の子女を指していう。

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文二代/写二代

有名作家の子女。書籍が溢れる環境に育ったためか、若くして文筆力に優れる。中高生の段階で作品を出版する者も少なくない。

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脱二代

若ハゲの人を指す。親世代と同時に禿げ始めたことを自嘲した表現。

一昔前、中国人のハゲは少なかった。かつての中国社会は生活のリズムがゆったりしており、全般的にストレスも小さかったのだが、近年経済成長に伴って競争圧力が強くなっており、強度のストレスのためか、若くして抜け毛に悩む人が急増している。

また、パソコンが普及し、目を酷使する人が増えたため、眼精疲労に起因するハゲも増えているようだ。

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剧二代

映画・ドラマの続編のこと。人気映画・ドラマの続編は視聴率やチケットの売上が半ば保証されているということで、市場にカネが溢れた2010年には余剰資金の受け皿となり、多数の続編が多数上映された。

投資側の思惑通りチケットの売上や視聴率は上々で、商売としては成功だった模様だが、視聴者の反応は普遍的にイマイチ。製作関係者も好評だった前作を上回るものを作るのは難しいこと率直に認めている。

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