新語で読む中国就職戦線のツワモノたち
“考碗族”という言葉が生まれるほど公務員試験戦争が過熱しているが、合格する者は一握りである。となれば、残る者は熾烈な民間企業、特に有名企業職位争奪戦線に参戦することになる。
このような状態の中にあって、多くの学生たちは、日本の学生と同様に大量のエントリーを行っている。考えることは同じ、数打てば当たる、である。今時の学生たちは、これを指して“海投”という。
“海”は“海量”(大量)、“投”は“投简历”(履歴書を送付する)を指し、大量に履歴書を送付することをさす。“海投”を自虐的に揶揄して“今天不海投,明天就投海。”(今日“海投”しなければ、明日海に身を投げることになる。)という言葉もあるようだ。
このような“海投”を繰り返すのが“投霸”である。“霸”は実力で他を圧倒する存在を指す言葉で、マイナスの語感を帯びることが多いが、“投霸”にはそのようなニュアンスはない。専門家はこのような行為を否定的に見ているが、実際に最前線で戦っている当事者にとってはそんなことは綺麗事でしかなく、“海投”という根気の要る作業を繰り返している。
もっとも、“海投”したところで書類審査に必ずしも通るわけではない。厳しい競争の中で、書類審査で足切りされてしまう学生も多いのが現実だ。
しかしながら、こんなことでメゲてしまっては厳しい中国大陸での生存競争を勝ち抜くことはできない。審査が通らないのなら入社試験会場に押しかけて試験の機会を獲得すればよいのだ、というツワモノが存在する。それが“笔霸(霸王笔)”“面霸(霸王面)”である。“笔霸”は筆記試験に、“面霸”は面接試験に無理やり参加する者のことだ。押し売りのようなもので、日本では考えられないような存在だが、中国ではアリのようである。敢えて日本語に訳すのならば、押し売り面接……「押し面」とでもいえばよいのだろうか。
なお、“笔霸”や“面霸”は書類審査に通って筆記試験や面接試験に進む機会の多い学生のこともさす。書類審査でふるい落とされる学生にとっては羨ましい限りの存在だ。この“霸”の字に彼らのちょっとした嫉妬心を読むことができる。
“面霸”などというと威勢があり聞こえが良いが、現実には厳しくて辛いものであることは想像に難くない。その厳しさ、辛さを読み込んだ表現が“辛拉面”である。“辛拉面”は韓国メーカーのインスタントラーメンのブランド名なのだが、ここでは“辛辛苦苦去拉面试机会”(苦労に苦労を重ねて面接の機会を引っ張る)とか“辛辛苦苦拉下脸面”(苦労に苦労を重ね、恥を忍んで)という意味が込められている。
ちなみに“面霸”も台湾メーカーのインスタントラーメンのブランド名である。中国語簡体字は「麺」を「面」と書くところからこのような言葉遊びの余地が生まれるのであろう。
もっとも、たとえ面接の機会を得ることができても、必ずしも合格するとは限りらない。面接を受けては落ちて、また面接を受けては落ちて……と、面接で繰り返し落とされる学生も存在する。それにメゲズに挑戦を続ける学生をさして“拒无霸”という。その不屈の精神が多くの就活者から尊敬を集めているようだ。
ちなみに“拒无霸”というネーミングはアニメ「トランスフォーマー」のキャラクター「メガトロン」の中国名“巨无霸”に由来する。
日本におけるガンダムほどの影響力はないが、中国にも日本のガンダム世代に類似する「トランスフォーマー世代」が存在し、実写版のトランスフォーマーが中国で上映された際、経済力をつけていたこの世代のトランスフォーマー消費が一躍世間の注目を集めたこともまだ記憶に新しい。