新語で読む中国の留学帰国組

かつて、“海归”たちは、中国社会での成功を約束された存在だった。帰国すれば即高位高給のオファーが殺到した。

そうなれば、皆海外を目指すことになるのは自明の理だが、海外に出ることは容易ではなかった。何より、そのチャンスが少なかった。

その後、留学が容易になるにつれて留学帰国組の数は激増したが、一方で彼らの値崩れも進行した。原因は複合的だが、簡単にまとめるならば、以下のようになるだろうか。

  1. 留学が容易になった分に帰国組の質が低下した。
  2. 帰国組の主な受け入れ先である外資系企業の給与レベルが相対的に低下した。
  3. 国内大学の大卒生の英語レベルが大幅に向上した。

“海待”(コンブ)の誕生と留学組の海産品化

この流れの中で生まれたのが“海待”。“待”は“待业”の“待”で、紛らわしい表現だが帰国就業待機組とでも言うのだろうか。「“海归”=高位高給」時代に留学した者として、フツーのお仕事では面子が立たず、やむなく「自宅待機」してる者だ。

“海归”は同音の“海龟”(カメ)にもじられるのと同じく、“海待”も同音の“海带”(コンブ)にもじられる。栄光のカメ時代も今や昔、コンブ時代の到来である。

中国の海産品はその名に“海”がつくことが多く、“海待”以降留学組の状態を海産品にもじった新語が続出することになる。

“海待”たちもいつまでもニートをしている訳にもいかないので、あちこちと仕事を探して回る。そんな帰国求職組を指して“海找”と言う。“待”ではなく“”(探す)訳だ。これも“海龟”“海带”と同じく、発音からもじって“海藻”と言ったりする。

まさに時代に翻弄された“海带”“海藻”たち。中でも特に厳しいのが非名門校出身者である。名門校出身でも厳しいのだから、非名門校なら言わずもがな。そんな者たちを指して“海草”と言うらしい。

学歴と並んで重視されるのが経験である。特に昨今は経験重視の風潮が強く、未経験ではよほどのことがない限り採用されない。結果として、高位高給はおろか、フツーの仕事すら見つからない、「あまりもの」が出現している。そんな彼らを形容するのが“海剩”。海外から帰国したが、必要とされない残り物。痛い。

“海剩”も発音からもじって“海参”(ナマコ)と言ったりする。栄養価が高いナマコ。残り物に福があると良いのだが。

このような厳しい国内の就職事情のため、帰国に二の足を踏んでいる留学生も少なくないようで、様子見を決め込んで留学地にそのまま残る者もいる。これを指して“海泡”と言う。この“泡”は「泡」の意味ではなく、「漬ける」の意味である。海外に漬かっているから“海泡”となる。

勝ち組と負け組への分化

“海泡”の存在は時代の変遷を感じさせる。そもそも、一昔前は出国したら絶対に戻らないことが主流だった。近年の目覚しい中国経済成長を受けて、留学終了後中国に戻る者が増えているのだ。最近の若者は経済一辺倒で、政治に興味がない者も多い。一人っ子世代で、比較的豊かな生活を送ってきたことも影響しているのかもしれない。

もっとも、多くの留学帰国組にとっての理想形は、海外で大手企業に就職して、そこから海外派遣と言う形で中国に戻り、管理職に就くというモデルであるようだ。そんな勝ち組を指す表現が“海派”である。海外に派遣されるのではなく、海外から派遣で戻ってくると読むところに注意。

なお、“海派”は上海風のものを指す一般語彙でもある。一般に“海派”と言う場合、こちらの意味になる。

“海派”のように、海外と中国を行き来する人を指して“海鸥”(カモメ)ということもある。優雅に空を舞う“海鸥”。“海带”(コンブ)や“海参”(ナマコ)たちが夢見る姿であろう。

“海龟”たちにとって厳しい時代となったが、もちろん運と実力で重用を勝ち得る者も存在する。そのような者を指して“海鲜”(海の珍味)という。

その中でもスター級の留学組を“海星”という。つまるところヒトデである。

同じ留学組でも格が違うのが“海狮”。“狮”は同音の“师”にかけた表現で、主に学術界の大家級の人を指す。

以上、留学帰国組の苦楽を読み込んだ新語を連ねてきたが、実際のところ“海归”に始まった“海~”語の中で、“海归”以外に広く認知されているのは“海待”ぐらいかもしれない。

その他の表現は、当事者なら知ってるかもしれない程度でしかないので、実際に使用する場合は注意書きが必要になるかもしれない。使用の際は注意されたし。

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Time:
2012-11-22 Last modified: 2012-11-22