中国毒ギョーザ事件 私的まとめ
昨年から世界的な規模で注目を集め始めた中国製品の安全性問題。日本では残留農薬が検出される程度で直接的な健康被害は発生していなかったのですが、毒ギョーザは日本の消費者へ直接クリーンヒット。朝青龍ネタであれだけ盛り上がることができる日本のメディアが放って置く訳がありません。日本のメディアは連日のように毒ギョーザネタでモチキリになりました。
まだ進行形なのですが、発生からここまでの二ヶ月分だけまとめておきます。一応大方の流れは見えてきており、政治的にはこのまま尻切れトンボ、いわゆる「迷宮入り」で終わりそうな気配が濃厚になってきているので、いいタイミングかもしれません。
全体の流れ
わかりやすいように先に全体の流れを押さえておきましょう。基本的には次のような流れで話が進みました。
事件発覚(1月末)
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関係会社謝罪会見(お約束)
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中国当局は神妙に会見(珍しい)、中国国内の報道は抑制(お約束)
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日本では報道合戦。風評被害拡大。
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ネット経由で中国に広がり、日本の陰謀説がまことしやかに語られる
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抑制ながら中国国内でも報道開始、日本の報道に対する反感強し
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「ギョーザの袋に穴を発見」報道が中国で流れ、日本の陰謀説が盛り上がりを見せる
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問題の毒ギョーザは別コンテナで、それぞれ大阪、神奈川で陸揚げされていたことが判明、日本では事件説台頭
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中国当局「少数の過激分子の犯行」示唆
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日本で内部犯行説流れる、中国当局は否定
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生協連が毒入り製造日のギョーザを中国側に供出、中国側は農薬が検出されなかったと発表
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ネットでは反日世論噴出
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徳島のギョーザは「販売店で汚染」と発表、中国で大々的に報道される
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ネットで日本の陰謀説膨張
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警察庁が「メタミドホスは国外製造」と断定、中国当局は反発「日本の捜査見解は憶測」と批判
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中国公安省が「中国内での毒物混入の可能性は少ない」と発表、日本の警察庁はキレるも福田首相は「非常に前向き」と評価
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共同通信社記者、メタミドホス購入で中国当局に一時拘束
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ネットで日本の陰謀説爆発
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世論に押される形?で中国当局は強気一辺倒へ
端折っているところ、微妙に前後しているところもあります。大まかな流れだけでも掴んでおいてください。
主要プレーヤー
次に今回の主要プレーヤーを列挙します。
- 日本側
- 日本政府
- 福田首相
- 警視庁
- JT・生協(日本輸入・販売元)
- マスメディア
- 消費者
- 中国側
- 中国政府
- 国家品質監督検査検疫総局
- 公安当局(中央)
- 河北省政府関連当局
- 天洋食品(製造メーカー)
- マスメディア
- ネットユーザ
事件関連する予備知識
次に今回の事件に大きな影響を与えた項目をリストアップします
- 事件発生当時、中国は南部が大雪害に見舞われており、政府トップは災害対策にかかりきりだった
- 中国の製造メーカ「天洋食品」は地元河北省の優良国営企業だった
- オリンピックが迫っており、特に食料品の安全問題は過敏な問題となっていた
(1)のため、中国側関係各当局の姿勢は長期間にわたりバラバラでした。突発事件に対して各部署がそれぞれの立場と利益関係に応じて対応するのは無理もありませんが、外交問題に発展した以上、速やかに中央政府が介入して調整し、見解を統一するのが通常の「中国的対応」となります。
ところが、今回は大雪害のため中央トップの介入が遅れたらしく、国家品質監督検査検疫総局と公安当局の姿勢に大きな温度差を残したまま一ヶ月近く放置されていました。
国家品質監督検査検疫総局は品質問題に責任を負いますから、かなり早期の段階で中国側の責任、特に品質管理面での問題を否定したい思惑が明らかに見て取れました。
一方、中央の公安当局は中国側の犯罪も視野に入れて捜査を進めていたようです。公安ですから犯罪者をしょっ引くのがお仕事。政府から介入が入らない以上、犯罪の可能性を追求するのは職務上当然でしょう。
地方側では、河北省の政府当局は(2)の理由から企業保護に走っていました。何せ製造メーカーの天洋食品は国有企業、しかも優良企業のお墨付き。メーカーの責任となっては河北省の政府関係者が責任追及されてしまいます。
(3)は中国側にとって大きな重石です。最終決断に大きな影響を与えたのは間違いないでしょう。
事件の流れ
事件の発端を簡単に振り返ります。事の始まりは千葉県市川市。2008年1月22日夜、中国産の冷凍ギョーザを食べた一家5人が、下痢や嘔吐の食中毒症状を訴えて入院していたことが30日に発覚、五名全員入院治療で、うち5歳の女児が重体。
千葉県警はギョーザの具のニラから有機リン酸系の農薬成分「メタミドホス」を検出。製造過程で薬物が混入したとみて業務上過失傷害の疑いで捜査を開始。後日厚生労働省の調査などで同ジェイティフーズ輸入の冷凍ギョーザを食べて中毒症状に陥った人が他に千葉県内で2人、兵庫県内で3人いることが判明しました。
日本側では報道合戦がスタート。まずはお約束のごめんなさい会見。半年前にすでにJTへ苦情が寄せられていたこと、被害が35都道府県に及んでいたこと等も判明。もはやお約束ではありますが、政府・役所のドタバタぶりも伝わり、メディアは祭り状態。
いい迷惑なのが段ボール肉まん騒ぎに続き大津波を被ったのがその他冷凍食品メーカー・外食産業・中華街・旅行社。おまけに学校給食も。
これに対する中国の反応は予想外?のものとして注目を浴びました。普段は「メディア騒ぎすぎ」とか「中国側の責任とは限らない」とか平気で言ってのける国なんですが、今回は殊勝にも「まず、李長江総局長にかわって、日本の消費者の食品中毒による影響を心配し、心より彼らの早期回復を願います」なんて言っちゃったんですから(※参照)オドロキです。
ただ、そうこう言いつつも何とか中国食品の報道被害(笑)を最小限のものにしようとする工作はさりげなくしています(※参照)。したたかです。
中国国内の報道は当初は抑制されたものでしたが、中国も今やネットの時代。インターネット経由で日本、香港、シンガポールのニュースが伝わってくるのですぐに広まりました。
日頃は反日なネット世論も当初は中国側を疑う意見が少なからず見受けられました。何せ中国国内で中毒事件が頻発しているので、ギョーザに毒が紛れ込んでもおかしくはない、と自然に感じたのでしょう。この時点では日本陰謀説を唱える者は日本絶対悪論者(まぁネットでは少なくないんだけど)ぐらいなもので、「中国の恥」と感じるものも少なくなかったようです。
ちなみにですが、日本のマスコミの中には「日本人は毒に対する抵抗力が弱い。」という言葉を取り上げて問題視していたところがありましたが、これは「自分たちは毒の中で生活しているから毒に耐久性を持っているんだ。」という自虐的な皮肉でしかありません。
ネット世論に変化が見られたのは、河北省検査当局が「中国側の検査ではメタミドホスは検出されなかった」と発表してから。さらに日本で問題のギョーザの一部に袋に穴が開いていたものが発見されたというニュースが流れたのも大きな影響を与えました。問題のすべてのギョーザから穴が発見された訳ではないのですが、見出ししか読まない多くの反日ネットユーザが一気に反応、日本の陰謀説が説得力を持って語られるようになりました。この頃になると一般ユーザの関心は既に別のものに移っているので、以降ネット世論は反日世論が日増しに強くなっていきます。
この現象について補足しますと、中国基準で見ればそもそもこの程度の中毒事件はそれほど珍しいものではなく、また日々新鮮でセンセーショナルなネタが供給されるお国柄ですし、おまけにこの事件が発覚した際中国は南部大雪害の真っ最中だったこともあり、より身近で、日々深刻さを増す大雪害の方が注目度は圧倒的に上でした。反日が趣味の反日チルドレンでもない限り、この問題を継続してウォッチするような人はそうはいないのです。
一方の中国のマスメディアはかなり抑制された報道姿勢でした。オリンピックを控え食料品の安全問題は敏感なテーマとなっていますし、外交問題化するのは必定でしたから、基本的に当局発の報道をささやかに掲載するに止めていました。まぁ中国のメディアとしても毒ギョーザネタより大雪害ネタの方がより切迫した話題だったため、意図的に云々しなくても自然にそうなるのかもしれませんが。
中国メディア、特に主要メディアは「党の舌」として政府の意思を反映するものなので、中国メディアを見ていると中国政府の考えがある程度透けて見えるのですが、2月の第二週までは中国国内での意図的犯行で手打ちする気配が見て取れました(※参照:1・2・3)。
残留農薬の食中毒にしては毒性が強すぎること、また製造メーカ「天洋食品」の労働条件が13時間労働で月1000元と厳しいものだったことから、会社に不満を持つ工場作業員が事件を引き起こしたと報道されるなど、日本側は事件説に大きく傾むいていきましたが、これと呼応するかのように中国公安当局は工場関係者を事実上拘束して調査していました。我らが福田首相も「だんだん核心に迫っている。本当のことが分かるまで事実関係を明らかにできないこともあるが、もうしばらく待ってほしい」なんてことを言ってましたね。裏を返せは政治レベルで中国側からそんなニュアンスの回答を受けていたのでしょう。
一方で、国家品質監督検査検疫総局は日本の“人為的混入”報道を否定するなど、中国当局内部でも意見の相違があることが伺えました。
ところが、生協連が毒入り製造日のギョーザを中国側に供出、中国側がそれから農薬が検出されなかったと発表したところからこの流れにさざ波が立ちはじめます。
続けて徳島県知事が、徳島で検出された農薬分については店内の防虫剤が原因と表明し、それが中国でトップニュースとして大々的に報道されてしまったため、国内のネット世論は日本陰謀説で確定。見出ししか読まないネットユーザたちは、このニュースが実際に健康被害の出ていない徳島のケースであることに気づくことはありませんでした。
これでネット世論については、この問題は彼らのイメージ通り「日本の陰謀、自作自演」で脳内終了します。彼らの中ではすでに終わったことになってしまったのです。ネット世論を意識するようになっている中国政府としては、非常に動きづらい状態になりました。
実際にこのニュース以降中国で報じられる毒ギョーザ関連のニュースへのコメントには「毒ギョーザは日本側の責任だろ。何だこのニュースは。」なんていう感じの書き込みが散見されるようになりました。ちゃんと読んでないんですねぇ。
この流れの中で日本の警視庁は「メタミドホスは国外製造」と断定するコメントを出しますが中国側は反発。中国国内の報道もそれまで内部犯行説を匂わせるものもありましたが、この問題に対する政府の態度が確定したためか、メディアは一気に中国無罪報道へ舵を切りました。元々日本陰謀説が好きなお国柄ですからこの流れは浸透度抜群。仕舞いには日本へ謝罪を求める声まで上がる始末に。そしてそれまで慎重な姿勢を続けてきた中国公安当局も「中国内での毒物混入の可能性は少ない」と発表。親中福田政権なら押し切れると中国中央トップが判断したのでしょうか。何せ我らが首相はこの中国の対応を「非常に前向きだ」と評価してしまうんですから開いた口がふさがりません。
トドメにですが、国家品質監督検査検疫総局は28日の記者会見で「日本の通信社の記者が農薬メタミドホスを購入、所持、携帯し、持ち出そうとしたため摘発した」と発表。これについて共同通信社は、中国総局の記者が15日、ギョーザ製造工場がある河北省から北京の中国総局に戻る途中に検問で止められ、車の後部座席に記者が購入した有機リン系殺虫剤メタミドホスの瓶があったため、約3時間拘束されて河北省政府当局者から事情を聴かれたことを明らかにしています。おまけに一部中国メディアは都合のいいように記事を改竄。日本に持ち出そうとしたとか書いているところもあるようです。そんな訳でネット世論は再沸騰。「毒ギョーザ事件は日本の自演」の声一辺倒に……。
共同通信の記者が拘束されたのは15日ですから、13日寝かされていたことになります。このタイミングで発表したのはシラを切り通して迷宮入りにする(少なくとも北京五輪終了までは)方向で毒ギョーザ事件を「解決」することで中国政府内部がまとまったからでしょう。
各プレーヤーの対応
日本の消費者が被害者となった毒ギョーザ事件。2008年、ひいては今後の日中外交を象徴するかのような事件となりました。
今世界的に不安視されている中国製品、特に食料品の安全性問題。そしてその中国に食を依存する日本。オリンピックという世紀の大会を控え「知覚過敏」になっている中国政府。雪解けを迎える中での日中外交戦。いろいろな意味で考えさせられます。参加プレーヤー単位でその動きを振り返ってみることで、今一度考え直してみたいと思います。
中国政府
初動から早かったです。まずは日本メディアの嗜好に合わせて被害者の早期回復を願うというめったに見せない殊勝な姿を見せつつ、一方で初期段階で巧みに問題を「日中間限定」「中国食品のシステム的な問題ではなく意図的な事件」という方向へ誘導していきました。
ただ、中央上層部が大雪害対策に追われている中で起きた事件というためもあるのか、中国当局間の調節は長期にわたってうまくいってませんでした。公安と国家品質監督検査検疫総局の温度差がそれを物語っていました。
中でも品質問題に直接責任を負う国家品質監督検査検疫総局はかなり飛ばしてました。「国家品質監督検査検疫総局は拙速」「状況証拠から考えて日本へ責任を被せるのは無理がある」という内部意見もあったそうですが、結果的にみれば国家品質監督検査検疫総局が一度は差し込まれたものの切り返して寄り切った形で終わっています。
中国側の責任を否定してシラを切り通す方針で固まった後はいつもの中国に戻って「知らぬ存ぜぬ」一辺倒。
これで困ることになったのが胡錦濤訪日を控え日中友好の盛り上げ役を担う中国外務省。日本側に「手打ち」を示唆しておきながら国家品質監督検査検疫総局に寄り切られ、日中世論のハザマで苦しんでおります。目下一大事は4月に予定されている胡主席の訪日。国家主席の訪日は10年ぶり、首相とは格違いですからこれが失敗となったら大失態。でも「毒ギョーザ事件は日本の陰謀」で中国国内世論的にはもう終わっちゃってますから、今から巻き返すのは難しいかと。
現在の時点で中国側の動きを評価するのなら、その問題対応能力は日本とは格違い。ただ、保身に全力疾走した国家品質監督検査検疫総局があまりに見事に寄り切ったため、結果的に現政権が苦心して築き上げてきた「日中友好」の流れに大きなダメージを与えてしまいました。回復には時間を要するでしょうから、外交的には現政権にとって大きな痛手となったでしょう。
日本政府
一方の日本政府は相も変わらず危機管理能力と外交力の欠如をさらけ出してくれました。初動から中国側のゲームプランに乗っかっちゃってますから、外交的にはこの時点で負けを約束されたようなものでした。
可燃度の高い事件であることははじめからわかっていたことですし、工場でメタミドホスが発見されなかったと発表された段階で外交問題化する可能性が明確化したにもかかわらず、その後も中国側の「手打ち」サインを信じて、最後にはしごを外されたのですから、まさに「失態」以外の何者でもありません。
外交に付随することなのですが、今回は「内部統制」の問題もさらけ出してくれました。今回の問題で日本側の悪手だったのが生協連のギョーザ供出と徳島県の発表。
生協連は毒入り製造日のギョーザを中国側に供出しましたが、これはしっかりと中国国内宣伝に使われました。
そして致命的だったのが徳島県の発表。徳島県知事が、徳島で検出された農薬分については店内の防虫剤が原因と表明しましたが、これが中国でトップニュースとして大々的に報道され、中国国内世論においては毒ギョーザ事件が「日本側の責任」であると確定してしまったのです。
よく読めば実際に健康被害の出た毒ギョーザ事件と徳島県の農薬検出分は別物であることはわかるのですが、反日ネットユーザはしっかりと記事読みませんから、勘違いして彼らのイメージ通り「日本の陰謀、自作自演」で脳内終了。ネット世論を気にするようになっている中国政府が動きづらくなってしまいました。
この一連の流れの中で思ったのですが、このように外交問題化している事件については、情報を政府が一括管理するようにはできないものなのでしょうか。生協が日本の警察より中国を信頼するのはわかりますが(笑)、徳島県の例については悪意があったわけではなく、知事としても現行の法令内で行動しただけなのでしょう。それゆえに惜しまれるのです。
中国がいかなる国であるのかわかっている者ならこのような発表が部分的にはしょられたり改竄されたりして中国メディアで流される危険性があることは認知できます。しかし、県知事にこの感覚を求めるのは土台無茶な話であり、政府が一括管轄するべきものです。メタミドホスの瓶を携帯していた共同通信の記者を拘束した情報を13日間保留し、方針が固まってから公にした中国の対応とは対照的です。
ただ、如何にシステムを整備しても、それを統括する責任者がアレでは機能しないかもしれませんね。「中国側に責任はなし」とする中国の会見を聞いて「非常に前向きだ」なんて評価してましたから。
中国メディア
中国製品、特に中国食品の安全性そのものが問題となった毒ギョーザ事件はオリンピックを目前と控えた中国では敏感なニュースとされ、報道規制が敷かれたため当初はかなり抑制された報道しか見られませんでした。
一方でネット経由で国外のニュースが入ってきます。事件が長引いたため中国系メディアが痺れを切らして共同通信の中国語版をソースにしたニュースを流し、中国当局(国家品質監督検査検疫総局)を慌てさせたケースもありました。
基本的に「党の舌」ではあるのですが、今や独立採算制で大競争時代の中にある中国メディア界もセンセーショナリズムと民衆(消費者)への迎合が顕著に見られます。時にこのような形で当局に圧力をかけることもあるのです。
論調としては中国側の問題を認識しつつも、日本メディアの中国攻撃には強い反感を覚えていたようです。小日本(日本の蔑称)からあれこれ言われるのは中国人の癪に障るのです。日本は「恩を忘れ中国で残虐行為を働き、未だに謝罪することのない極悪非道な国」というイメージがなかなか拭えないので。
中国当局の対応が中国無罪でシラを切り通す方向で固まった後は十八番の日本批判へ一気に流れます。書いてて気持ちいいんでしょうね、都合のいいようにはしょったり改竄するのもお手の物。反日な読者もその方が喜びますから中国メディアとしても願ったり叶ったり。
日本メディア
相変わらずセンセーショナリズム一辺倒。問題発覚当初はあれだけ騒いでも、事件が長引くとすぐに飽きてイージス艦衝突事故やロス疑惑ネタに流れます。まぁワイドショーなんてバラエティですから、熱しやすく冷めやすい視聴者に合わせているだけなんでしょうけど。
中国ネット世論
マスコミが政府に握られているため、比較的自由な中国ネット世論を「真の世論」と持ち上げるケースが日本メディアの中で散見されますが、日本のネット世論と実社会での世論に格差があるように、特に日中関連の問題については、反日に振れ易い中国ネット世論を以って「民衆の声」とするのは無理があります。
しかしながら、これ以外に民衆の声を拾い上げる手段がない以上、一応の代表として扱う他ないんですね。
中国ネット世論については、事件発覚当時は中国側を疑う意見が少なからず見受けられました。何せ中国国内で中毒事件は日常茶飯事。ギョーザに毒が紛れ込んでもおかしくはない、とフツーに感じたのでしょう。この時点で日本陰謀説を唱える者は「日本人に善人はいない」と本気で思い込んでいるw日本絶対悪論者である反日ネットユーザぐらいなもので、毒ギョーザ事件を「中国の恥」と感じる者も少なくなかったようです。
ちなみに先にも書きましたが、日本のマスコミの中には「日本人は毒に対する抵抗力が弱い。」という言葉を取り上げて問題視していたところがありましたが、これは「自分たちは毒の中で生活しているから毒に耐久性を持っているんだ。」という自虐的な皮肉でしかありませんので悪しからず。
ネット世論に変化が見られたのは、河北省検査当局が「中国側の検査ではメタミドホスは検出されなかった」と発表し、さらに日本で問題のギョーザの一部に袋に穴が開いていたものが発見されたというニュースが流れてから。あくまで「一部」でしかなかったのですが、見出ししか読まない多くの反日ネットユーザが激しく反応、日本陰謀説が一気に盛り上がりました。この頃になると一般ユーザの関心は既に別のものに移っているので、以降ネット世論は反日世論が日増しに強くなっていきます。
これも繰り返しになりますが、中国基準で見ればそもそもこの程度の中毒事件はそれほど珍しいものではなく、また日々新鮮でセンセーショナルなネタが供給されるお国柄ですし、おまけにこの事件が発覚した際中国は南部大雪害の真っ最中だったこともあり、より身近で、日々深刻さを増す大雪害の方が注目度は圧倒的に上でした。反日が趣味の反日チルドレンでもない限り、この問題を継続してウォッチするような人はそうはいないのです。
中国当局の方針が「シラ切り」で確定し、中国メディアが一斉に「中国無罪」をぶち上げてからは反日一色となります。特に共同通信の記者がメタミドホスの瓶を携帯して拘束されたニュースが伝わった後は「反日祭」状態。過去を連想して「日本が記者を使って中国製品の名前に泥を塗ろうとした陰謀が露見」と自分たちのもつ日本のイメージを重ねて大喜びしてます。
日本消費者
今回の事件で日本の消費者の中国食品離れは決定的になった……と断定するのはまだ時期尚早でしょう。現在は中国製食品の買い控えが起きていますが、時間が経過すれば安価な中国製食品に客足が戻ってくるでしょう。
日本企業
JTフーズの品質管理は明らかに不備でしたね。中国の非常識な現場環境と現場無視な日本本社お偉い様の間で、品質を守るため日々奮闘している多くの日本企業戦士から言わせれば、「いい迷惑」以外の何物でもないでしょう。
「中国リスク」は言われて久しいものですが、企業としてはやはり低コストの魅力は大きいものです。それはわかりますが、リスク回避の努力だけは怠らないで、と願うのみです。
ただ、低コストと言っても、これまでは搾取OKだったものが、「和谐社会」(調和社会)の掛け声の中で労働者待遇改善に舵が切られ、韓国企業が集団夜逃げwする事態にまで発展しているなど投資環境が大幅に転換していますから、今後は自ずと東南アジアやインドなどに分散されていくとは思うのですが。
教訓
結局日中双方が「自国での犯行の可能性は小さい」と言い合う最悪の展開になった毒ギョーザ事件。事件は「迷宮入り」になる可能性が濃厚ですが、この事件を通して日本の抱える問題点が再び浮き上がってきました。
一つは先にも言及した危機管理問題。大規模な事件事故が発生するたびに指摘されるものですが、今回は外交も絡んで総合的な情報統括システムの欠如が浮き彫りになりました。
中国のような「特殊」な国に関わる問題については何の変哲もない情報の公開が取り返しの付かない事態に発展することが今回の事件で明確になった以上、情報公開の流れと衝突することになりますが、特殊な状況下では専門組織に情報を集中させ一括統括することを検討しなければならないかもしれません。
中国様よりお達し(※追記:2010/4/2)
毒ギョーザ事件から二年。風化させるつもりかな……と思っていたのですが、中国様より容疑者拘束のお達しがありました。
- ギョーザ中毒事件で容疑者拘束 「天洋食品」元臨時工 中国、待遇などに不満(共同通信)
- 毒ギョーザ逮捕 「おれがやった」で特定 自宅で妻にうっかり漏らす(産経ニュース)
- 毒ギョーザ中毒、供述で注射器2本発見 メタミドホス付着(産経ニュース)
- 呂容疑者、16日に自供 毒ギョーザ事件で中国公安当局者(産経ニュース)
- メタミドホス、工場で入手 中国公安当局者が会見(産経ニュース)
ツッコミどころ満載ではありますが、まぁそれはともかくとして、ひとまずは中国様が罪を認めた、というところがポイントでしょうか。
政治的には米中関係が丁々発止な状態にあるので、一応良好な状態にある日本との関係強化に振り子が振れたのかもしれません。おまけに今の日本は友愛な首相が率いる親中JAPANですから、環境的にもいい感じだったのでしょう。
早速ですが、友愛な首相から中国様へ感謝感激の言葉が伝えられています。
- 鳩山首相「中国の努力評価」(産経ニュース)
中国でも一応大きくは伝えられていますが、一方で報道規制も敷かれている模様です。
- 中国大衆紙「毒ギョーザ事件解決」1面に見出し(共同通信)
中国国内の反応はこんな感じ。
- <毒ギョーザ事件>容疑者逮捕で中国人“揺れる自尊心”(サーチナ)
中国国内では事件は日本側の責任で起きたものと脳内終了してましたから、衝撃も大きかったかと。
米中関係が大幅に改善しない限り、中国から日本へのアプローチは続くと思います。日本にこの環境を存分に利用できるだけの外交力があれば……