四川大地震~日本国際緊急援助隊と中国政府と中国人民と

もしかしたら歴史的転換点にあるのかもしれません。四川大地震が中国の対日感情に大きな変化をもたらしています。

災害救助を政治に絡めて話すことを嫌う人は少なくないと思いますが、敢えて政治の話をします。そもそも、政治とはそのようなものです。これは共産主義とか民主主義とかにかかわらず、そういうものなので。政治的な話が嫌いな方はパスしちゃってください。

で、話を戻して四川大地震です。日本の救助隊が被災地入りして救助活動を行ったことは広く報じられているのでご存知だとは思いますが、

これが中国人民の対日感情改善に劇的な効果を発揮しています。

反日の楽園だったネットから反日が消えてしまったのです。正直驚きました。そして失礼ですが正直気持ち悪かったです。常日頃日本の悪口ばかり見ているので、突然変わられるとこちらがついていけませんw

特に犠牲者への黙祷写真は強烈なインパクトがあったらしく、絶大な威力を発揮しました。

死者に対する敬意という概念は、もちろん中国にもあるのですが、文化的に日本の方がより重く見ることもあり、ショックが大きかったようです。何せ日本人は皆残虐非道であると本気で思い込んでいる輩までいるので。まぁ日本にも中国人は皆……という方もいますからお互い様ですけどね。

中には「日本が変わってきた」なんてカワイイことを書き込む人まで出る始末。変わったのは中国なんですけどw

日本の救助隊を煙たがっている中国人民解放軍の兵士の話なども漏れてきていますが、

旧日本軍の悪行を散々聞かされ、仮想敵国人と見なしている訳ですから、一兵士がそう思うのは理解はできます。無理もないでしょう。

それはさておき、当初は日本を含めた海外救助を拒んだ中国政府が一転して受け入れに転じたことに関してあれこれ意見があるようですが、これは中国当局内部で主導権が受け入れ拒否側から肯定側へ移ったからだと思います。

肯定側はおそらく中国外務省。“自力更生”は共産党中国の国是ですが、世界では「人命第一」がスタンダードであることは外務省なら重々承知しているはずです。“自力更生”の名の下に犠牲者を増やせば世界的な批判を浴びることは目に見えていますから、受け入れを強く迫ったものと思われます。

拒否側としては“自力更生”とかいう精神論(面子とも言う)の他にも、前例がないのでどう動けばよいのかわからない、とか、海外救助隊をどう扱えばよいのかわからない、またもし海外救助隊に犠牲者が出たらどうするのか、等々という現実的な不安もあったと思います。官僚とはそういうものですから。

ちなみに中国は国内で外国人が犯罪に巻き込まれたり、負傷したりすることに対して非常に敏感です。特に外国人観光客が犯罪に巻き込まれた場合の中国当局の反応は、中国人の場合とは比べ物にならないほど早く、「中国人軽視」と批判する人民もいるくらいです。

そもそもこの現象は、訪中外国人を政治的宣伝対象と位置づけている(た)政策に由来します。外国人に「共産主義中国はすばらしい国だ」と認識させ、国に帰してやることで、共産中国のシンパを作ることを目的とするものです。

中国は政治的宣伝を非常に重視するので、「外国人優遇」は中国の官界では伝統的な方策となっています。現在は外国人の来訪も多く、メディアも増えているので、昔ほど重要ではなくなってきているのでしょうが、それでもまだこの傾向はしっかりと残っています。

人民解放軍に犠牲者が出ることは(政治的には)痛くも痒くもありませんが、海外救助隊の場合はそうはいかない……と反応したのでしょう。

また、70年代の唐山大地震の頃ならともかく、今やインターネット時代ですから、一刻も早い救助を求める民衆の声を無視することができなかったという側面もあると思います。

いずれにせよ、結果としては肯定側が押し切り、援助隊受け入れ、となったのでしょうが、ここで日本に一番槍を持たせたのは明らかに中国外務省の政治的意図が働いているものと思われます。

愛国主義教育によって民族主義思想が蔓延してしまった上、反日に大きく振れているため、正常な外交にまで影響が及んでいる状態にあるのが今の中国です。対日外交では譲歩を許さない雰囲気があり、これを破ったら即国賊扱い、その怒りが党に向きかねません。譲歩しない外交なんてあり得ませんから、外交をつかさどる中国外務省にとって、人民の反日感情は邪魔物でしかないのです。

おまけに現在はダルフールやチベット等の人権問題で欧米の包囲網が形成されつつある状態ですから、人権にうるさくないアジア唯一の主要先進国である日本を取り込むことで天安門事件後の再現を狙う中国は、国内の反日感情を早急に薄める必要があったのでしょう。

援助隊の活動についてはいろいろな問題もあったようですが

中国としてははじめての受け入れとなるのですから、スムーズにいかなくても無理はないと思います。空港のある成都の付近にも生き埋めになっている人が多数そんざいする倒壊した学校や病院があるにもかかわらず、敢えて遠くて生き埋めになっている人がわずかしかいない青川県へ送られた、という問題もありましたが、これは日本の援助隊を歓迎しない勢力(軍?)が、体よく日本の援助隊をどうでもいいところに送り込んだ、と見てもいいかもしれません。嫌なことですが、政治とはそういうものなのです。

結果的に生存者を発見することはできませんでしたが、政治的な効果は非常に大きかったようです。

ただ、政治に翻弄された国際緊急援助隊の皆様は、不完全燃焼の感が強かったと思います。

四川地震:日本の救援隊帰国、「涙の感謝」にも表情固く(サーチナ)

何はともあれ、お疲れ様でした。無事で何よりです。