北京五輪 私的まとめ

なんだかんだ言って終わっちゃいましたね、北京五輪。良くも悪くもここまで話題を提供してくれたオリンピックは近年ありませんでした。そこで一発、総括しておきます。

カウントダウン一ヶ月

北京五輪までの一ヶ月。メディアは地震モードから五輪モードへ転換され、北京五輪への助走が始まりました。

車両規制

ナンバープレートによる車両規制はもうお馴染みです。

この施策の効果はすでに実証されていますし、これに加えてお上の公用車の私用を半減させれば、排ガスに起因する「光化学スモッグ」の発生は相当程度抑えられると思います。

安全検査

一方で効率悪そうな施策が地下鉄で安全検査。朝のラッシュ時はどうするつもりなんですかねぇ。めちゃくちゃ混むんですけど。ちなみに中国では都市間を繋ぐ鉄道では常に安全検査が行われています。日本人には想像し難いかもしれませんが。

露天商の取締

あと、日本ではニュースになっていないみたいですけど、露天商の取締が厳しくなっています。これまでも禁止だったんですけど、実際には至る所で露天商が商売しており、それを取り締まる「城管」と呼ばれる都市管理部門の暴力執行がたびたびニュースで流れています。

「城管」は人民に「土匪」とあだ名されるほど性質が悪い連中で、ゴロツキがコネを通して隊員となっているという話がまことしやかに語られているほどの部門。露天商に対する暴行は言うまでもなく、殺人事件まで引き起こしてしまう野郎どもです。

暴行現場をケータイなどで撮影していた取り巻きの市民を殴り殺してしまったという話もありましたね……

それはさておき、五輪期間は徹底的に取り締まる、ということで、野菜売りの露天商も姿を消してしまいました。市場に比べ相対的に安く、あちこちで売っている露天商は、庶民にとっては便利な存在だっただけに、不便に思っている人も少なくないのではないでしょうか。

長雨と野菜価格の高騰

加えてここ数日北京にしては珍しい長雨が続いたので、葉物野菜の価格が高騰しています。夏に入りようやく野菜価格が落ち着いてきたところだっただけに、底辺に位置する庶民にとっては厳しいでしょうね。

不平タラタラな北京市民

開催都市として、いろいろな犠牲を強いられている北京人。一般庶民は結構不平タラタラになっています。まぁ北京人の犠牲など、中国その他地域の犠牲に比べれば微々たるものなんですがどね。そのあたりの話は報道されないから自分たちだけ余計に負担していると思っている人ばかり。

揺れまくる対外世論

チベット独立問題で聖火リレーが大騒ぎになって、愛国民族主義が暴走して赤っ恥をかいたと思ったら、今度は四川大地震で「にわかに」国際協調主義に目覚めたりw

忘れられた七夕

話は変わりますが、七夕です。中国では陰暦で祝いますから、公暦で祝う日本とは日付が変わってきます。

去年は中国のバレンタインデー、とかなんとか言って花(中国のバレンタインデーは男が女に花を贈る)の価格が釣り上がっていましたけど、オリンピックの直前となった今年はさっぱり。オリンピックに持っていかれてしまいました。

去年は七夕に入籍なんていう「ブーム」もおこりましたが、今年は8月8日のオリンピック開幕式に合わせて入籍するカップルが多いようです。

開会式

開催地にいる、ということで、義理立てて開幕式は見ておきました。見た、と言ってもテレビですが。長いんですね、開幕式って。一時間ぐらいで終わると思ったら、12時まで引っ張ってやんの。4時間ですよ。こんなに長いとは思わなかった。開幕式は毎回こんなに長いんですか?夏は早寝早起きモードになっているのですが、最後は眠い目をこすりながら無理やり起きてましたよ。こんなことなら再放送を見ればよかった。いや、電波ジャックとかあるかなぁ、なんていう期待wもあったので、がんばって生放送(数秒遅れだろうけど)を見ていたんですが。

私と同じく辛そうだったのが江沢民の奥さん。江沢民は老いを見せられない中国政治家の意地で踏ん張っていたみたいですが、奥さんはもう逝っちゃってましたね。あの歳で、あの暑さで、あの時間帯は厳しいでしょう。同情しちゃいましたよ。

西側首脳とプーチン

北京五輪の開幕式には出席しないと息巻いていた西側の首脳もふたを開けてみればちゃっかり顔を揃えて出席してます。20年ほど前は経済制裁とか発動してましたけど、人権がなんたらチベットがなんたらとブツブツ言いながら、開会式の「ボイコット」すらできないんですから時代は変わったものです。

まぁ西側の首脳としても商売がかかっていますから。今や中国は大切なビジネスパートナー。国の経営者としての立場から言えば、地政的に遠いチベットなんてどうでも良いのでしょう。

たとえ政治家としての信念を持っていたとしても、絶対的な権力を持つ皇帝ではありませんから経済界の意向を無視する訳にはいきませんし。できることといったらダライ・ラマに会ったりすることぐらい。

もっとも、ただ一人例外が。別の意味ですが。戦争を始めておきながら何知らぬ顔をして参加したツワモノ・プーチン……

プーチンがどことなく心ここにあらずだったのはこのせいか。

それにしても、さすがはロシア、さすがはプーチン。盟国の「百年の夢 平和の祭典」なぞどこ吹く風。容赦なく開会式の8日に開戦しちゃいました。日本の指導者にはひっくり返ってもできない。いややってほしいとは思わないけど、その「気迫」というか、「図々しさ」は少しぐらい学んでもいいのでは。

開会式演出

で、開幕式ですが、良かったんじゃないですか。中国らしい、というか、張芸謀(チャン・イーモウ)らしいというか。彼の作品らしい風格が良く出てました。

一番良かったのは花火ですね。足跡の形でポンポン上がったり、ハトの羽のように噴き出したり、とにかくきれいでした。12万発も打ち上げたそうで。

それ以外では、人組みで作った「鳥の巣」とか良かったですね。あと漢字の演出も。漢字の演出はもうちょっと短くても良かった気がしますが。

あと印象に残っているものとしたら、各国の選手入場の間トラック際で踊っていた女の子たちのバテ具合。見ててちょっと気の毒でしたね。蒸し暑かったですから。

で、選手入場部分はいい加減飽きちゃったので、ネットしながらの片手間でしたが、歓声の上がる国がわかりやすくて面白かったですね。「同胞」こと台湾は言うまでもありませんが、伝統的な盟国パキスタンも大きな歓声で迎えられていました。四川大地震の援助で手持ちのテントを全て中国に送ったのもプラスだったかな。あと、北朝鮮も。辺境の将軍様にはいい加減手を焼いている中国ですが、一般庶民レベルで見る北朝鮮はまだ「血の盟国」のようです。

日本ですか?特に何も。ブーイングの嵐にならなかった(よね?)だけマシと考えましょう。ちなみにお約束ではありますが、サッカーはブーイングの嵐でしたし。

やっぱり激しいブーイング… 圧倒的アウエー、日本の応援も苦戦(産経ニュース)

で、結局のところ、開幕式を見るのは初めてなので、比較して云々することはできませんが、まぁ良かったんじゃないですか。中国らしくて。

それにしても、中国人は歴史が好きですよねぇ。好きなのはいいんですが、執着しすぎると現代における民族の成長と発展にマイナスの影響を与えることにそろそろ気づいてもいいんじゃないかと思うんですが。まぁ中国人にとっては宗教みたいなものだから、そうは簡単に治せないんだろうけど。

開会式裏話

感動的?だった開会式。おしなべて高評価だったのですが、後日開会式にまつわるいろいろなネタがポロポロとこぼれてきて、ある意味こちらの方が楽しめました。

まずはワタクシもお気に入りだった足跡花火。あれ、CGだったそうですね……

なんか「拍子抜け」というか……まぁいいけど。確かにあの位置で空撮を「許す」訳がないですね、今になって考えてみれば。まぁそれはそれでいいんじゃないんですか。創意は優れていた訳ですし。

ただ、そんなCG花火は実は序の口。大きな話題になっているのが開会式で歌った美少女の口パク問題。

容姿でダメ出しを食らった歌の少女の写真をみましたが、子供らしい「あどけない」表情で、この子でも良かったんじゃないのかなぁ、というのが私の所感。言われている通り歯並びはあまりよろしくありませんが、この年齢だったら永久歯への生え変わりの時期な訳で、それはそれで自然で良いような気がするのですが。

容姿で選ばれた林妙可さんは確かに可愛いですが、正直なところ私はあまり好きにはなれませんでした。開会式で映し出されたあの不自然な笑顔から北朝鮮を連想してしまったので。

かねてから歌手の口パク問題がクローズアップされていたこともあり、中国国内でも論争を巻き起こしたみたいですが、あっさりと報道規制が敷かれてしまいました。

曰く党中央幹部の決定だったらしいですね。わかる気がする。民間(ネット)では歌声少女を支持する声も大きいようです。おかしいのは党の感覚、というところがせめてもの救いか。

CG花火はまぁそれもありかな、とは思いますが、少女の口パクは正直気持ちいいものではありませんね。中国的にはOKだ、と言われても、中国大運動会ではないのですから。事実、国際社会では反感が高まっているようですし……

そして傷心の声だけ少女……

開会式「口パク」問題、歌った少女は傷心状態で“遠い所”に(読売新聞)

当初はこんな報道が流れていたのですけどね……

五輪口パク問題、歌声少女「縁の下の力持ちで満足」(サーチナ)

罪深きは「演出」か……それともお代官様か……

この他には、中国国旗を掲げて入場した少数民族の子供の大半は、実は漢民族だったということも判明。

またまたやらせ発覚? 「56民族の子供たち」実は漢民族(産経ニュース)

これもただの演出と言えばそれまでなんでしょうけど、チベットやウイグル問題が世界の注目を集めている時だけに、もうちょっと配慮した方が良かったのでは。何だかんだ言って自分たちで批判の「口実」を提供しているだけのような気が。

当人たちはこんなこと言ってますが……

これは開会式に関する報道についてのコメントではないのですが、ぶっちゃけた話、突っ込みどころが満載。

最後にですが、こんなネタも。

やはり「生放送」には弱いのかw、なんて思ってしまいます。

開催期間中の北京

天気

まずはお天気から。今年の気温はここ数年に比べ明らかに低いです。湿度は相変わらず高く、中国で「サウナ日」と言われる高温多湿日が続いているのですが、気温が幾分か低いので、例年に比べすごしやすくなっています。選手も助かっているのでは。あと観客も。まぁそれでも「蒸し暑い」ことには変わらないのですが。

気温が低いのは多分雨のせいだと思います。今年の北京は雨が多いんです。例年は湿度が高いだけで、なかなか雨が降らないのですが、今年の夏はよく降ります。降雨弾を打ち過ぎたせいかどうかは知りませんがw

期間中も雨の日がありました。降るのは夕方以降だ、と当日の朝の天気予報でお天気お姉さんが言っていたのですが、朝9時頃外出した時にはもう降り出していたり。オリンピック期間中は時間帯別に天気予報を出していたのですが、あまり当たっていないような気が。ちょっと前天気予報の正確性は世界の先進レベルに達しているとか言ってませんでしたっけ。それとも、天気予報の正確性なんてこんなものなんでしょうか。

大気汚染

天気と関連して気になるのが大気汚染ですが、実際のところどうなんでしょう。肉眼による視界の見通しはあまり良くなかったような。ナンバープレートによる交通規制により車の交通量は減ったのですが、バスやオリンピック車両を優先するために設けられた車線規制のため、ナンバープレート規制の効果が半減、おなじみの渋滞が発生し、当初期待されていたほどの効果は上がっていなかったのかもしれません。

ただ、追加の交通規制処置が打ち出されなかったことを考えると、(なんちゃってではありますが)当局による統計上は基準レベルに達していたんでしょうね。見通しが悪いのは汚染物質のせいではなく、単なる霧のせいである、ということでしょうか。

民生

オリンピックの生活への影響は心配していたほど大きくはありませんでした。メイン会場の「鳥の巣」から遠くないところに住んでいるのでいろいろやっかいなことになるかなぁ、と気を揉んでいたのですが、それほどでもありません。

もっと外国人が増えるかなぁ、と思っていたのですが、ビザの発給が厳しくなったこと、そしておそらくテロを心配してということもあると思いますが、実際には思ったほど増えませんでした。もちろん、普段よりは多いんですが。

それより目についたのは「ボランティア」。本当にあちこちに立っていました。逆に警察の姿はそれほど目立ちませんでした。まぁ私服警官は大量に配置されていたんでしょうが。

団地の中ではオバちゃんたちが安全警備のボランティアとして固まっておしゃべりしていました。まぁ以前もこんなだったような気がしますが。ただ単にボランティアの服を着せただけでは……

ボランティアといえば、勝手にボランティアにされたことに不満をいだいているタクシーの運ちゃんの話もありましたね。

(1)気に入らないねぇ――タクシードライバーの本音(日経ビジネス オンライン)

犠牲ばかり強いられている北京外の地区に比べれば、一応受益者でもある北京市民なんだから、これぐらい我慢しろ、と私は言いたい。

生活への影響で感じることとすれば、生鮮野菜の価格が一部高騰していたことでしょうか。車両規制のため野菜の物流に影響が出たという話ですが。ほうれん草とか暴騰していました。巨峰より7割も高かったのはナゼ?

閉会式

開会式はお約束どおり?何かとお騒がせなものとなりましたが、閉会式は開会式よりは質素に終了しました。開会式がド派手だったこともあり、閉会式にも期待した人(家内を含む)も少なくなかったようですが、開会式との落差の大きさに家内は酷評しきりでした。私はネットをしながらのながら鑑賞でしたが、元々期待していなかったので、閉会式でもこれだけ金をかけられるのはさすがだ、と逆に感心しきりでしたが。

世間的にも閉会式の注目度は開会式には及ぶべくもなく、ニュースもずっと少ないのですが、その中からいくつか。

これは私も気づきました。映像の中の花火のタイミングと、窓の外から聞こえてくる花火の音のタイミングが違う(実は会場の近くに居住)のでw。やっぱりビクビクなのね。

閉会式では次回開催都市のロンドンからも出し物があったのですが、その中でベッカムが蹴り込んだ「閉会式ボール」に絡んでこんな話が流れています。

ベッカムの「閉会式ボール」?、売り出しに罵倒の嵐―中国(Record China)

個人が持ち出せたのなら、それはそれですごいのでは、というのが私の所感。没収されないんですね。上の人間がそこまで気が回らなかったか、このボランティアが上手だったのかはわかりませんが。

閉会式ネタが少ないのは、開会式のネタ話の多くが現場監督の暴露によるものだったこともあって、閉会式は緘口令が厳しく敷かれたという見方もできますが。

あと、くだらない話しなのですが……

開会式で燃え尽きたかとw

最後に、おまけですが……

相変わらずですねぇ。で、中国は……

要は「迷惑なんだよ。自分たちだけでやってくれ。」とのご返事。確かに迷惑でしょうね。

大会運営

大会運営は心配されていたほどひどくはなく、無難にこなしていた感じがします。去年かおととしだったか、北京マラソンでランナーたちがショートカットしてしまったなんていう笑うに笑えない「ミス」がありましたが、今回のオリンピックでは、競技運営上はこのような致命的な凡ミスはなかったようです。

誤ってプレスセンターへの記者の立ち入りを拒否してしまうという自爆的ミスはありましたが、

それ以外は比較的ソツなくこなしていたようです。

開催前は制限も厳しくて、かなり殺気立ってたみたいですけど、

北京五輪あれもこれもダメ…応援制限にサポーターら困惑(産経ニュース)

開会式を無事終了してからというもの、末端の意識は日を追うごとに低下していったみたいで、安全チェックなどがなぁなぁになっているという話は耳にしていましたが、実際に試合観戦した方のBLOG記事なんかを見ていると、やはりそうだったみたいですね。

[北京オリンピック観戦] 鳥の巣は"便衣兵"の巣窟!?(ぺきん日記-中国/北京より)

警備も「私服」警察にボランティアの服を着せ、やわらかい印象を与えることに成功したみたいです。このあたりはさすが、です。

金メダル

メダル獲得数については中国が予想通り?金メダルでダントツトップを獲得したそうで、体育総局の役人たちはホッと息をなでおろしているのではないでしょうか。開幕前はアメリカ・ロシアがナンバーワンだ、とか必死に煙幕張ってましたけど、自国開催、ということで、上からの無言?の圧力と、人民の盲目的?な期待を一心に背負ってましたから。

北朝鮮なんかもそうみたいですが、共産主義国家のオリンピック選手育成事業は共産主義の優位性を誇示するという政治目的ではじめられたものなので、とにかくナンバーワン重視(資本主義国家に負けちゃいけない)、中国も共産主義国家よろしく子供のころから徹底した管理育成を行い、「ステートアマ」として金メダルを取りに行かせるというシステムになっています。

今大会の中国もそれによろしく、金メダルの数は圧倒的でしたが、銀と銅を含めたメダル総数ではアメリカに及ばないといういびつな形になっています。8位までの入賞を計算するとその傾向がより顕著になるのが特徴。金メダル大国なれどもスポーツ大国ならず、というのは中国当局も認めるもので、やはり異質な国だな、と感じさせられます。

金メダルと言えば大問題に発展したのが陸上110Mハードル。同種目アテネ五輪金メダリスト、中国陸上短距離界の至宝こと劉翔が一度もゴールまで走りきることなく棄権してしまいました。金メダルの山の上に燦然と輝く中国勝利の象徴となるはずだった金メダルでしたから、そのショックは相当なものでした。

元々110Mハードルを巡る状況については微妙でした。メキメキと頭角を現しているライバルのロブレスが6月に劉翔の世界記録を更新、一方の劉翔は足の怪我が囁かれ、今年の記録もいまいちだったこともあり、劉翔が負ける可能性は小さくありませんでした。

アテネ五輪で金メダルを取り、一躍脚光を浴びた劉翔。陸上短距離で世界の頂点に立った初めてのアジア人とうこともあり、中国国内での人気は鰻登り、「アジアの昇り龍」なんて持ち上げられちゃって、CM等に出まくって文字通りCMの帝王と化してました。

そして北京五輪です。金メダル数世界一を目指して挙国体制で挑んだ中国。中国政府が重んじる面子工作の象徴みたいなものですが、その中でも劉翔の金メダルは山のような金メダルの上に飾られる、北京五輪勝利の象徴になるはずのものでした。

それだけ大切なものだったのです。もちろん、劉翔にかかるプレッシャーは相当なものだったと思います。おまけに自分より若いライバルがその実力を伸ばしています。ライバルのいない状況ならともかく、敗北の可能性が高い状況にあったのですから、そのプレッシャーは言わずもがな、でしょう。

そんな中で、彼がどのような走りを見せるのか。唯我独尊的な性格の彼がそのプレッシャーとぶつかったときどうなるのか……と期待していたのですが。

念のため申し上げますが、別に劉翔に対して特に好き嫌いの心象は持っていません。劉翔の反日を知る人の中には彼を嫌う人もいますが、ワタクシとしては「だから何?」という感じです。別に政治家ではありませんし、あのような環境の中で反日思想を持ったところで不思議ではないでしょう。結構インターネットとかやってたそうですから、純粋に「日本は反省しない残虐国家だ」と思い込んでいるんじゃないですか。別にいいじゃないですか、知識人でもなし、走り屋なんですから。彼の無知は大目に見てあげましょうよ。

それはさておき、フツーの中国人たちはみな劉翔が金メダルを取るものだと思い込んでましたから、その彼が銀メダルに終わったとき、どのような反応を見せるのか、という点にも興味がありました。

そんな中で起きたのが今回の棄権。中国では事件と言っても良いかもしれません。まさか……でしたから、その「衝撃」は相当なものでした。

  • 北京は劉翔パニック!(北京趣聞博客)

オリンピック運営の最高責任者で、次期国家主席と目されている序列第6位の習近平国家副主席が見舞いの電報を出し、それがニュースで流されるという異常事態、メディアは火消しで忙しいのですが、肝心の中国人の反応は、同情の声もあれば「罵倒する」声もあり……という形で激論になっているみたいですね。

罵声を見ていると、やはり広告とか出まくってたのが反感を買っていたみたいでした。超格差社会の中国は今オカネに敏感。日本の亀さん一家とは比べ物になりませんが、強気一本でややビックマウスだったことも反感の火に油を注いでいるような気がします。挙句の果てには直前で棄権したのは保険金狙いなんて心のない声まで上がっていたり……

一番つらいのは本人でしょうから、今はそっとしておいてあげましょう。

あぁ、そういえば、痛いのは本人だけではなく、彼のスポンサーも。

驕れる者は久しからず、と言いますが、これはちょっと残酷でしたね。4年後は厳しいかもしれませんが、強気な性格の彼なら復活してくるかもしれません。地獄のどん底からどのように復活してくるか、期待しましょう。

サッカー

一方メダルとはなんら関係のないところで注目を浴びているのがサッカー。我らが「カンフー」サッカー部隊は期待通り?オリンピックの舞台でもやってくれました。

観客マナー

同じく心配されていた観客マナーですが、まぁこんなものではないのでしょうか。ワタクシ的には想定範囲内w

日本のメディアですから、日本戦に関する報道に偏るのは無理もありませんが、その他の国のチームも、中国戦では結構「ブーイング」をもらってたみたいです。まぁ日本戦は別格ですけどね。

それを裏付けるように、日米戦では米国応援に回っています。

中国人の応援・観戦マナーは最低だった ブーイング・野次・バッシングなんでもあり どこでも『中国 加油!』 in 中国北京オリンピック(北京のダーシーって誰よ!)

日米戦で米国の応援に回るのは米中同盟で日本と戦った第二次世界大戦時への「ノスタルジー」からくるものだと思いますが、日刊スポーツの河崎さんのコラムでは上部からの指示があったと指摘してされています。

この国を永遠に去る前に見ておきたいもの - 北京オリンピック 河崎三行コラム(nikkansports.com)

ちょっと引用しますね。

 後半途中、アメリカが少々日本に押されている時間帯のことだった。突然一人の若い女性ボランティアがスタンドの通路最前列にピッチを背にして立ち、チアスティックを持って周囲の観客の応援を先導し始めたのである。なんと言ったか。
 「美国加油!(アメリカ、頑張れ!)」
 耳を疑った。お先走りの観客ではない。見慣れた青いポロシャツを着た、公式の大会ボランティアなのである。全世界から来る観客の便宜を図るために配置されたスタッフの一員なのだ。
 よく見ていると応援を先導している女の子から少し離れたところで、彼女に身振り手振りで指示を送っている男性がいる。彼も学生と思しき若さだったが、頭にヘッドセットをつけてどこかと『交信をしながら』女の子をコントロールしているのである。そしてひと通り場を盛り上げると、このペアは隣のブロックに移動してまた「美国加油!」をやる。
(中略)
 しかし中国など何の関係もない日本-アメリカ戦で、なぜ公式ボランティアがわざわざアメリカへの応援の音頭を取らねばならないのか?
 件のペアを遠隔操作していたのが運営側=北京オリンピック組織委員会=中国政府であることは疑う余地がない。国ぐるみで、日本が好成績を挙げることの邪魔をしたいらしい。子供達への反日教育や日本に関するメディア報道のコントロールにも通じる、国策の一環というわけだ。だったら始めから、北京五輪への日本選手団の参加自体を拒絶すればよかったのだ。

状況証拠から推測して背後で操っていたのが北京オリンピック組織委員会である可能性は考えられますが、国ぐるみで日本チームの「邪魔」をしている、というのはちょっと思い込みが過ぎるのではないでしょうか。

このような行動をとった理由として考えられるのは、大会直前に北京でアメリカ人が襲われ死亡したことに対する「償い」アピールのためではないでしょうか。

政治の主流は日中友好路線に舵を切っていますから、国が主導して反日を煽る事はないと思います。煽るどころか「火消し」に躍起なのですから。まぁ反対勢力が策動したとか、現場の責任者が生粋の反日主義者だったとかいう可能性も考えられないことはありませんが、その可能性は低いかと。

ちなみに日韓戦では日本応援に回っていたとか……

最近韓国による伝統文化・歴史パクリ報道が盛んに流されており、嫌韓感情が蔓延していることが主な原因ですが、もともと属国として見下していた韓国に追い抜かれてしまったこと、そしてそれに鼻をかけて中国人を見下す韓国人に対するやっかみがあり、嫌韓の土壌があったのも事実です。一方の韓国人もアジアNo.1の優秀民族を自任して、中国人を見下していますから、お互い仲が悪いんですよ。反日では一致しますが、それが外れると「犬猿の仲」

なお、観客マナーの被害者?は別に外国チームだけではないのですがw

オリンピックの政治学

華やかだったオリンピックの舞台から一歩外に出ると、そこは陰湿な政治の世界が広がっています。政治に振り回されてきたオリンピックですが、北京五輪はそれが露骨に表れた、近年においては珍しいオリンピックの祭典となりました。

弾圧

北京がオリンピック開催地として当選した際、条件として「人権の改善」という項目があったはずなのですが、今となればもはやそんなものは××食らえだったわけで……

海外の活動家もお縄です。まぁ彼らは確信犯だろうけど。

お約束のように批判は受けるものの……

だから何だと。これを「無力」と言うのでしょう。IOCは今やビジネスパートナーですから、敢えて言うなら「同じ穴のむじな」

報道規制

期待された報道規制緩和ですが、こちらもあえなく却下。

日本人記者に対する暴行事件まで発生しています。

テロ

一方で中国政府にとって厳しい情勢にあるのがテロ問題。まぁテロといってチベット独立急進派はたいした武力も経験もありませんから聖火を襲うぐらいなことしかできませんが、少し北に視線を移せばウイグル族がいます。イスラームという信仰をバックボーンにした人たちです。イスラームといえば現役バリバリのテログループがいますからね。オリンピック会期中及びその前後、反体制運動が最も活発なウイグル地区ではオリンピックを標的としたと思われるテロ活動がいくつか報じられています。

ただ、すべてが独立派のテロ行為によるものではない、とする意見もあります。微妙です。国境警備隊襲撃事件については、中国当局はウイグル独立派の犯行と見ているようです。

ウイグル側は反論してますけど。

この当たりの話は本当に微妙。権謀術数の世界です。

自称「ゴシップ」の中国駐在記者BLOGでその一端をちょっぴり覗くことができます。ご興味のある方はどうぞ。

テロ警戒、戒厳令五輪!(北京趣聞博客)

まぁ、ウイグル一般庶民の不満は高まっているのはたしかで、おまけにテロ組織で訓練を受け、装備を引っさげて中国国内に潜伏している人間が6000人もいるとかなんとか……

カシュガル襲撃事件 国際社会の眼集める狙い?治安に大きな衝撃(産経ニュース)

そんな訳で中国当局は“草木皆兵”状態でした。ご愁傷様です。まぁ私も北京にいるのですから他人事ではありませんでしたが。

もっとも、見方を変えればウイグル過激派も北京から遠く離れた新疆地区でこれぐらいのことしかできなかった訳で、その力量には限界を感じます。アルカイダが本格的に反中国闘争に乗り出だしたりしない限り、中国の反体制派抑圧の口実にしかならないでしょう。

それよりも、中国政府にとって衝撃だったのは北京で発生したアメリカ人殺害事件ではないのでしょうか。

ウイグルにせよチベットにせよ、漢民族VS少数民族の対立構図では、共産党政権が圧倒的多数の漢族に寄って立つ政権である以上、そうそう政権が揺らぐことはありませんが、官対民の対立構成では、大多数の漢民族を敵に回すことになり、政情不安に直結します。オリンピック開始直前でしたから、上層部に与えた衝撃のほどは言わずもがな、でしょう。

問題を解消しようにも地方役人のご乱行にはほぼ為す術なし。結局フタをし続けるしか手はない訳で。

悪代官から狼藉を受けていない漢民族は、なんだかんだ言って結構我慢してくれるんですけど。

で、まぁいろいろありましたが、チベット問題で盛り上がってしまった聖火リレーを含めて考えるのならば、中国としては成功半分失敗半分と言ったところでしょうか。

中国政府としては、国際社会にチベット問題の存在を広めてしまったのは大失点でした。ごく一部の人しか関心のなかったこの問題が、国際社会において一挙に知名度を得てしまったのは致命的と言っても良いでしょう。

ただ、チベットであれだけの騒ぎになっても、なんだかんだ言って西側主要先進国(アメリカ・ヨーロッパ(議長国フランス)・日本)の首脳が顔を揃えて開会式に出席するなど、中国外交の底力を見せつけた……というか、それだけの国力をもっていることを見せつけた、と言った方がいいですね。外交力は国力なしにはありえないものなので。

繰り返しになりますが、要はビジネスパートナーなのです。20年ほど前は経済制裁の発動なんかしてましたが、今となってはそんなことしたら返り血をべっとりと浴びてしまうので、何もできません。その点を読めずに西側の陰謀だとか過剰に反応してバカ騒ぎをし、かえって問題を大きくしてチベットを利した愛国新世代はまさに現代の義和団。義和団は尊い愛国者だ、なんて教えているからこんなことになったのかな。

国内の反体制運動も北京では完全に封じ込み、民心をまとめて国内的には一応大成功の体裁を整えることができた訳で、独裁国家としてこれだけ大きな大会を実施できる管理能力を誇示できた点は成功と言えるでしょう。巨大国家におけるより完成された独裁政権というものを世界にアピールしたのですから、そちらの方面に敏感な人は脅威を感じたのではないでしょうか。

まぁネット世論は完全にコントロールできている訳ではないんですけど。

愛国精神だけで食っていける訳ではないのですからね。一般庶民としては、やはり自分のフトコロが一番大切です。

最後に一つおまけ。

皮肉であってほしい……