Google中国の乱
ついにGoogleが反旗を翻しました。中国の軍門に下ってから3年……ぐらいかな。当時は「Googleよお前もか」と揶揄されたものですが、金融危機以降鼻が90°直角にソリ上がっていた中国様のお顔に、モロに冷や水をひっかけちゃいました。
巨大市場という経済的利益をチラつかせて、多国籍企業はおろか、世界各国をもポチ化しはじめていただけに、中国政府としては寝耳に水だったことでしょう。現在慌てて対応を検討している模様です。
- 米グーグルの中国事業撤退の可能性で情報収集中=中国政府高官(ロイター)
将来的な経済的損失は相当なものになるでしょうが、少なくとも、歴史に汚名を残すことはなくなる訳で。その崇高な精神にひとまずは拍手を。
もちろん、経済面から言えば、現状Googleの利益に占める中国市場の割合は微々たるものであることも、今回の義挙を支える要因になっているんでしょうけど。
ちなみに、多分勘違いしている人も多いと思うので、一言付け加えておきますと、「中国事業撤退」とは、中国におけるローカライズ事業の撤退を意味しており、中国でGoogleがまったく使えなくなる訳ではありません。
国際版の中国語版は引き続き使えます。もちろん、中国当局がフィルタリングしなければ、の話ですが。
個人的には、当局がGoogleの国際版を完全にシャットアウトしてしまうとは思いません。Twitterは完全に遮断していますが、Googleは中国国内でも有名すぎて今更シャットアウトするのも難しいですし、検索サイトにおけるキーワード単位のフィルタリングは技術的にも一定のレベルに達しているので、サイトまるごとシャットアウトする必要はありませんから。
ちなみに、フィルタリングの範囲を拡大することは、フィルタリング回避ソフトの普及を後押しすることにもなるので、このあたりのバランスの取り方は中国当局も悩んでいるものと思います。
現状では、政治的に敏感な季節(例えば重要な会議期間中)とか、政治的事件が発生したしたときに、フィルタリングの範囲を拡大するという形をとっているみたいです。イザというときのためのノリシロは残しておく、というスタンスですね。
フィルタリング回避ソフトと終りの無い競争をしている以上、常日頃から全力疾走する訳にはいかないんです。
それはそれとして、今回の騒動で苦しくなるのがマイクロソフト以下中国と商売している米IT企業です。改めてカネと名声をかけて踏み絵を踏まされることになるのですから。
ネットがわからないメディア(※追記:2010/2/4)
Google問題のため、蜜月かと思われたオバマ米政権と中共政府との間に亀裂が走っています。肝心のGoogleの撤退の方はまだ協議中みたいで、その後情報は出てきていませんが、アメリカ政府やアメリカのその他IT企業の反応など、外野の方が賑やかになってます。そこで、気になった点をいくつか。
まず第一に、Google中国サイトとGoogle国際サイトの中国語版をごっちゃにして考えている記者がいること。専門外なことは承知してますが、レベル低すぎ。
おそらく、他の分野の記事もこういうなんちゃってな記事が多いんでしょうね。マスメディアは過度に信用しちゃダメだということを思い知らされます。いわゆるメディア・リテラシーですか。
あと、Googleと中国の勝負勝敗について語っている記事も散見されますが、それも的外れ。
中国当局にとっては勝利も何もありません。公然の秘密ではあるものの、大沙汰にしたくない検閲問題が大々的にメディアの俎上に乗ってしまったんですから。中国当局としては如何に対内的な体面を繕うのか、という一点にかかっています。内部でも当局の検閲に対する不満が高まっていますから。
なにせ現政権は検閲なしには存続し得ない政権です。検閲に関して中国当局が譲歩することはありません。如何に検閲に対する内部の不満を抑える、またはそらすのか、中国当局としてはこの一点にかかっています。
一方のGoogleとしても、撤退をチラつかせて、「検閲」という中国当局がおおっぴらにしたくない問題を、大々的にクローズアップさせて当局の反感を買ってしまった以上、たとえ中国に残ったとしても、当局の監督権が大きい中国では商売は厳しさを増す一方でしょうから、最早勝負も何もない訳です。
Googleは実を捨てて名を取ったことになります。失ったものも大きいですが、得たものも大きい。どちらが大きいのか、それは見る人の価値観次第でしょう。
だから、勝ちも負けもないんですよ。
それよりも、面白いのは周囲の反応ですね。Yahoo!はグーグルに同情的、一方のマイクロソフトはビル・ゲイツがGoogle批判を行って、中国メディアが喜んで取り上げているのが印象的です。ちなみにマイクロソフトCEOのバルマーは、検閲には反対の立場であることを表明していることを付け加えておきます。
まぁOS商売のマイクロソフトはGoogleのように国際版の中国語版という逃げ道がある訳でもなし。中国様に頭が上がらないのも無理はありませんが。
香港撤退と中国式世論誘導の妙 (※追記:2010/3/29)
世界のマスコミを賑わせたGoogle中国の乱。ひとまず香港へ撤退するという形で第一幕が閉じました。
結果的に言えば、中国当局としてはもっとも嫌な手に出られた、というところでしょうか。どうせ撤退するならキレイさっぱり去っていただいた方がスッキリするというもの。香港へ撤退して検閲フリーな検索を提供するというのは、中国当局にとっては喉に魚の骨が刺さっているようなもの。それが原因で死ぬことはないけど、妙に気になる存在となる訳です。
しかも、御丁寧に中国本土からのアクセスを公開するという手の込みよう。どのキーワードがフィルタリングされているか、逆算できてしまうというものです。
おそらく今後中国当局は、断続的に接続を遮断することで、他検索エンジンへの乗り換えを促す策に出るのでは、と思います。完全遮断してしまうのは、あまりに露骨なので。そもそも特定の検索キーワードをフィルタリングする技術は既に成熟していますから、その必要もありませんしね。
中国当局としては、なにより重要な国内世論を誘導することは成功しているので、とにかく一難は去ったと言えるでしょう。
ちなみに国内世論対策は、Googleが撤退の決断を下すきっかけになったハッキングについては完全否定し、Googleが中国進出時に法的に受け入れた検閲に対して、突然反抗して駄々をこねたものだ、と見事に論点のすり替えを行っています。Googleが我慢ならなかったのは検閲ではなく、ハッキングだったんですけどね。