朝日君
中国語新語
朝日君(
)日本語訳
朝日新聞中国語サイト公式ウェイボーアカウントの愛称(※解説参照)
解説と補足
中国語を学んでいる者には説明はいらないと思うが、ウェイボーとはマイクロブログのことで、“微博”と書く。日本のTwitterに相当するようなものである。ここで紹介する“朝日君”は、朝日新聞の中国語サイト公式のウェイボーアカウントの愛称である。
“……君”という呼称表現は現代中国では使われないが、日本のアニメや小説の流行とテレビで日々お茶の間に流される抗日ドラマのお陰もあって、日本では「君」が呼称として使われることは広く知られている。
ちなみに英語圏では“san”(さん)の方が知られているが、中国では「さん」がひらがなであることが障害になっているようで、認知度では「君」の方が圧倒的である。日本語を学んでいるか、商売などで日本人との接触が多い人でないかぎり、「さん」という表現は知らないであろう。
“朝日君”という愛称も、朝日新聞が日本の新聞であることから名付けられたものである。もちろん、日本の職場で使われるような上下関係の意味合いは含まれない。
この朝日君が中国で人気を博したのは、毎晩その日の終わりに発信する“晚安,哦呀苏咪”のコーナーで配信する謎かけが秀逸であったためだ。“晚安”は「おやすみ」の意で、“哦呀苏咪”は「おやすみ」の音訳である。この名称のお陰で「おやすみ」という日本語が中国で認知されるようになった。
“晚安,哦呀苏咪”のネタは中国や世界でその日に発生した出来事や事件で、時に中国社会に深く切り込むところが人気の理由だ。その人気はそのユーモア、時にブラックな感覚と、手書き文字の美しさ、そして漢字の一部を絵に置き換えたり、色を変えたり、削ったりするなど、自由自在に変化させるテクニックに依る。特にその漢字に対する造詣の深さは中国人をして唸らせるものがあった。
例えば中央テレビで記者が出稼ぎ農民に“你幸福吗?”(「あなたは幸福ですか?」)と質問したのが話題になったとき、“幸福”の“幸”は空白(ピンインが付記されているので意図的に消されていることがわかる)に、“福”は「田」の部分を欠いたものが配信された(※右上の画像がそれ)。その心は“幸”の字を上下にばらして「土」と「¥(金)」と読み、「土地と金と田を失い、残るものは服と口一つ」という強烈な皮肉を込めた暗喩だった。
“晚安,哦呀苏咪”が人気を博したのは、このような中国人を唸らせるウィットに富んだコンテンツが日本人によるものなのか中国人によるものなのかわからなかったところにも起因する。ピンインが付記されていたり、丸文字っぽい文体は中国人らしくないのだが、内容はあまりにも中国人のツボにハマっているのだ。
“流行語になった朝日君のつぶやきも存在する。例えば“又双叒叕体”である。“又”は「また」の意味だが、“双”“叒”“叕”をそれぞれ2つの“又”、3つの“又”、4つの“又”と読むのだ。安倍首相が再び首相に再任した際に“我们又双叒叕换首相了”とつぶやいたのがヒットとなった。“又”と“双”は常用されるが、“叒”と“叕”はほとんどの人が読み方すら知らない漢字である。
“又双叒叕体”は頻繁に代わる日本の首相を揶揄したものだが、朝日君は中国の社会問題についても容赦はない。中国で頻発する強制土地収用事件を“连日本鬼子来了都没好意思说这块土地是天皇的”(「日本鬼子(※注:日本人の蔑称)だってこの土地は天皇のものだなんて恥ずかしくて言えない」)と揶揄したつぶやきは大ヒット、7万回「リツイート」され、3万のフォローワーを獲得、その後類似の事件が発生すると必ず目にするコメントとなっている。
そんなこんなで朝日君のフォローワーは新浪と騰訊の二大ウェイボーだけでも130万を数えるほどになったのだが、2013年7月17日に突如アカウントを抹消されてしまった。アカウント抹消の要因についてはチャイナウォッチャーの間でいろいろな分析がなされているが、共通する点は「よくわからない」ところである。きわどい内容の投稿も少なくなかったが、投稿削除で済む程度のレベルで、アカウント抹消に至るほどではない、というのが共通意見だ。
日経や共同通信もウェイボーアカウントを持っているが、抹消されていない。そもそも、朝日の中国語サイトはネット検閲のためブロックされているのだが、日経や共同通信の中国語サイトはブロックされていない。日本では一般に親中紙とみなされている朝日新聞だが、昨今は中国を厳しく批評しているものも少なくない。ネット検閲を受けているのはそのためかどうかはわからないが、朝日だけブロックされている以上何らかの理由が存在するのであろう。
なお、“晚安,哦呀苏咪”のコーナーを担当していた「王左中右」氏(ハンドルネーム)は3月に朝日を離れ、今は個人アカウントで更新を続けている。閲覧には新浪微博のアカウント登録が必要だが、興味のある方はフォローしてみてはいかがであろうか。