臣妾做不到体
解説と補足
先週紹介した「大陸大衆文化ブーム」こと“陆流”を代表するコンテンツである人気宮廷歴史ドラマ《甄嬛传》。この中で皇后が放ったセリフ“臣妾做不到啊!”が流行語になっている。
《甄嬛传》は清朝の宮廷を舞台とした歴史ドラマで、タイトルの通り「甄嬛」という名の妃が主人公である。この妃が嫉妬と欲望が渦巻く後宮の中で権謀術数を駆使し、最後には現皇后を蹴落として皇后の座を奪うのだが、このシナリオの中で皇后は主人公と対峙する最大のヒール役となる。
このセリフが流行語になったのは、このセリフの「主」である皇后の迫真?の演技による。このセリフは皇帝に詰問された皇后が泣訴した際に放ったものだが、このときの表情がインパクト抜群で(右上の画像がそれ)、一躍「時の言葉」となったのだ。
意味は文字通り「(そんなことまでは)できない」ことを表す。例えば、“让我早起,臣妾做不到啊!”(早起きなんて、わたしにはできません!)というような形で用いる。“臣妾”は皇后や側室たちが皇帝に対して謙って言う表現だが、流行語として使う場合にはそのような意味はない。
“臣妾”という表現は文学作品や映像作品でよく目にする表現だが、歴史上はそのような言葉は用いられなかった。“臣”は臣下(男性)が、“妾”は皇后や側室などが皇帝に対して用いる謙称で、“臣妾”などという男女の謙称が入り混じった自称は存在しないのだが、なぜか芸術作品ではこの表現が好まれるようだ。
ちなみに大人気となったこの《甄嬛传》は雍正帝の後宮を舞台としているが、内容は全くのフィクションである。原作はネット小説で、一里塚的な作品となったのだが、歴史をフィクションしているところが中国のお偉いさんの気に召さなかったらしく、当局は今後歴史を改竄したドラマは制限するといきり立っている。
ちなみのちなみにメディアを管轄する部門は广电局というのだが、流行となったドラマや番組のジャンルに片っ端からイチャモンをつけて制限をかけている。何かが人気となると同類の作品が雨後のタケノコのように量産され、テレビがそれ一色で埋まってしまうという中国特有の業界事情もあるのだが、そもそもお偉いさんの価値観が社会の価値観の変化についていけていないような気がしてならない。ソフトパワーを伸ばしたいのならばクリエイターに自由を与えるのが一番なのだが、それはどうも共産党の性に合わないようだ。