陆流
解説と補足
日本では中華圏の大衆文化をまとめて「華流」と呼ぶが、政治的要因のため分断されている中国大陸、香港、台湾の大衆文化は別物である。中国では改革開放後長らく香港や台湾からの大衆文化流入が続き、香港や台湾の流行曲やテレビドラマが中国社会を席巻していた。共産党政権下の混乱により大きく出遅れた中国社会にとって、香港や台湾の文化は先進的で、且つ洗練されたものであったのだ。
そして30年を経た今、この流れに変化が起こっている。中国大陸の芸能コンテンツが香港や台湾に流れ始めているのだ。同じ中華圏ということで、言語の敷居は存在しない。厳密に言えば中台の言語は微妙に異なるが、芸能コンテンツの視聴には支障を来さない。香港は広東語圏だが、中国への返還後は中国語教育が実施されているので、言語の壁は日を追うごとに低くなっている。
注目すべきなのは、この現象が韓流のように政府が主導して販促を行なっている訳ではなく、また中国のコンテンツホルダーが積極的に売り込みを行なっている訳でもないのに発生している、ということだ。これは、大陸コンテンツの質そのものが向上していることを意味する。これは、90年代には思いもよらなかったことだ。
この現象を“韩流”に倣って“陆流”と呼ぶ。“陆”は言うまでもな“大陆”の“陆”だ。これに相対して香港コンテンツは“港流”、台湾コンテンツは“台流”ということもできるが、“陆流”を含め、これらの表現はまだ認知されていない。一応同じ中華圏ということもあるが、香港物や台湾物は中国社会に完全に浸透してしており、“韩流”にように強く意識されないためもあろう。逆に言えば、“陆流”という言葉が注目されるのは、この現象がまだ新鮮だからなのであろう。
今後中華圏において“陆流”という言葉が意識されなくなるほど大陸コンテンツが浸透していくかどうかはわからない。巨大な中国市場をホームグラウンドとしているため資金力は抜群だが、創作の自由はかなり制限されている。これが開放されれば大陸の大衆文化も黄金期を迎えることができると思うのだが、政治的な理由のためそれは難しいのかもしれない。
ちなみに右上の画像は“陆流”を代表するテレビドラマ《甄嬛传》。ネット小説を原作とする歴史フィクション。