裸年
解説と補足
公務員天国、中国。日本でも公務員は人気の職業だが、中国のそれは日本のさらにはるか上を行く。公務員試験の競争は激化の一途を辿り、2013年は平均値でも90倍に達したとも言われている。
日本で公務員が人気なのは、やはりその安定性が買われているのだが、中国の場合はそれに加え圧倒的な福利厚生が人気の理由である。日本で福利厚生といえば、低額の社員寮や保養所がせいぜいの話だが、中国の役所や国営企業などでは、食品から日用生活品まで支給するなど至れり尽くせりなのだ。果ては医療費が無料だったり、年金や健康保険の保険料はすべて国もちだったり、バブルで高騰する住宅すら無料かもしくは非常に低額で購入できたりするなど、合法的な「隠れ収入」の比率が非常に高いのだ。
これに加え、カネが絡む税務や税関、不動産関連などの部門になると、企業からの「付け届け」がかなりの額になる。もちろんこれは違法なのだが、あまりにも普遍的な現象なので、公然の秘密と化しているのだ。
まさに公務員天国なのだが、最近風向きが変わりはじめている。習近平新政権の倹約・反汚職運動のため、公務員の「隠れ収入」にメスが入れ始められているのだ。中国の正月である春節は、上からは生活物資が支給され、下からは付け届けが集中する季節なのだが、今年は福利が徹底的に削られ、また汚職摘発を恐れて付け届けを避けたり、受け取るとしても人目を憚るのに一苦労するという、前代未聞の事態に陥っている。
例年は食べきれないほどの食品を受け取って親戚に配るぐらいなのに、今年は自腹になった、と嘆く公務員の話も伝えられているが、世論は依然として公務員に厳しい。「公務員にあらずんば人にあらず」と我が世の春を謳歌してきた公務員だけあって、風当たりはいまだ強い。
このような、慎ましい年越しとなった本年の正月を“裸年”と呼ぶ。“裸”は「むき出しである」ことから「何もない」ことを意味する。近年新語でよく使われる言葉だ。
ちなみに右上の写真は広東省順徳区政府ビル。どう見てもホテルにしか見えない。