井族
解説と補足
マンホールの中で暮らす人がいる。もっとも、マンホールと言っても、日本人が真っ先に連想する下水道ではなく、スチーム暖房用のマンホールなのだが。
中国の北部地区の都市圏では、冬季はスチーム暖房が提供される。よって、スチーム暖房用の配水管が市全体に張り巡らされており、そのマンホールが存在するわけだ。流れているのは熱水なので、マンホールの中は暖かい。これに目を付けた人が、マンホールの中に住み着いてしまったのだ。
このような人は以前から存在したようだが、先日、マスメディアで取り上げられて大きな話題を呼び、“井族”と名付けられた。中国語ではマンホールも“井”で表すので、“井族”なのだ。
住人は老若男女さまざま、上は70歳から下は4歳まで、車の洗浄や廃品回収などで生計を立てているそうだ。
彼らがマンホール住まいを選択するのは、言うまでもなく倹約のためである。今回“井族”が「発見」された北京のような大都市の賃貸価格は上昇の一途をたどっており、少しでもカネを浮かそうとマンホールに住み着いたのだ。
住人曰く、冬は暖かく、夏は涼しいそうだ。唯一の欠点は雨漏りするところだが、北京のような雨が少ない都市ならば、それも許容される範囲なのかもしれない。元々最底辺層向けの賃貸物件の住宅条件は日本のそれよりもさらに悪いので、圧倒的な「価格競争力」を誇るマンホールが選ばれているのだろう。
住人の中には、そうやって浮かしたお金を子どもの教育費に当てているという、日本だったらワイドショーが大喜びしそうな人も存在する。
なお、この度マスメディアで大々的に取り上げられてしまったので、当地の役人が動いてしまい、彼らはマンホールから追い出されてしまった。コンクリートブロックで「住居」を塞がれてしまった彼らの運命は如何に……