「中国人を侮辱する映画」の影に見えるもの
情報統制といえば最近熱いのがインターネットの動画投稿サイト。知的財産権侵害の温床なのですが、それは仕様なのでいたしかたないかと。
厳しい情報統制が敷かれている中国大陸の中でもインターネットにおける規制は比較的ゆるく(だって管理しきれないんですもの)、マスメディアでは流されないネタや禁制品を閲覧することができます。
当局としてもそのことは重々承知なのでしょうが、徹底的に管理するとなるとコストが半端じゃなくなるでしょうし、インターネット経済に打撃を与えてしまうことになるので、いろいろと苦心しているようです。
そんな中で今熱いのが動画投稿サイト。映像はテキスト文のようにキーワードでフィルタリングできませんから、共産党的にボツなネタの取り締まりも後手後手になりがち。長文を嫌うネットユーザも刺激的な動画は大好きですから、共産党的にすごぶるマズいネタが流れるのは非常にマズイです。
折りしもYouTubeの二番煎じを狙って雨後の筍のように発生した動画投稿サイトが大盛況。競争も激化してより刺激的な内容を……という当局にとっては非常によろしくない方向で展開していました。
昨年末話題となった、国営テレビCCTVの五輪チャンネル設立発表会見に名物アナウンサーの妻が乱入して夫の浮気を暴露したCCTVアナウンサー不倫騒動シーン、「中国人を侮辱する映画」という中共語と共に禁制とされた『苹果(ロスト・イン・ベイジン)』の過激なセックスシーンが動画サイトで流れてしまったことを口実として、ついに当局が動画サイト規制に出ました。
一月末を以って動画サイトは国有企業のみという通達を突然下す相変わらずの荒業で、このままでは動画サイトが全滅するのでは、と一部で囁かれましたが、蓋を開けてみれば規制の対象は新規営業許可申請分のみ、ということで、既存の動画サイトは継続運営可能と相成りました。
個人的にはこの問題から政府内部でも規制を強化したいグループ(思想宣伝系)とネット経済を成長させたいグループ(商務系)の軋轢がなんとなく透けて見える気がします。
日本のマスメディアではこのような見方はあまりされないのですが、中国共産党と言えど一枚岩でないのです。いろんな意見が内部で衝突を繰り返しており、駆け引きの上、最大公約数でまとまっているだけです。対外的には“统一口径”(口裏を合わせる)のが彼らの基本ルールなのでちょっとわかりづらいのですが。
拡大するインターネット経済を成長させるには規制は邪魔。でも情報統制をしないと政権が維持できないというジレンマを抱える中国。結局のところ規制は適当なところで落ち着いて、その隙を縫ってイケナイ情報が行き来するという現在の構造は将来も変わらないでしょう。
ちなみに話は少し戻りますが、「中国人を侮辱する映画」という中共語直訳の日本語を本質的な意味に沿って翻訳すると「中国共産党を侮辱する映画」となります。彼らの言う「中国人」は時として「中国共産党」や「党幹部」を指すことに留意しておきましょう。
ちなみにその奥にあるのが、中国伝統の官僚主義。中国の政治体制の話になると、民主主義を巡る話になりがちですが、ぶっちゃけた話、民主主義であろうが社会主義であろうがそんなことはたいして重要ではありません。中国社会の支配構造の本質は官僚主義にあります。今は、共産主義というお面を被っているだけのこと。
要は「役人でなければ人に非ず」。中華二千年のスタンダードです。