中国人の“白领”(ホワイトカラー)コンプレックス

“白领”(ホワイトカラー)。日本人的にはなんでもない語彙だが、中国人はこの言葉に妙なコンプレックスを抱いている。

かつて中国では、“白领”は高嶺の花的な存在であった。“白领”は高給取りであり、且つ中国人が崇高な職であると考える頭脳労働職であったためだ。科挙の国であった中国では、伝統的に学問があることが尊ばれた。これが頭脳労働を尊ぶ気風の根源にある。

改革開放後、外資系企業が中国に進出すると、そこで働く“白领”は圧倒的なステータスとなった。何より、給料の桁が違うのだ。

しかしながら、改革開放30年を経た今、“白领”のステータスが完全に崩壊している。

アジア金融危機の際、経済対策の一環として大学生増加策が取られた。一時的に高卒を減らし経済の回復を待つ一方で、我が子に大学卒のステータスを求める親の教育投資で消費市場が刺激されることを期待したのだ。

結果として、“白领”予備軍が増大し、以後、大卒市場は買い手市場となった。

奇しくもこれと時を同じくして、農村部の余剰労働力が減少し続けた。加えて苦労を厭う一人っ子世代の出稼ぎ労働者が主流となり、需給逼迫のためブルーカラー層の待遇は急上昇し、給与において一般的な“白领”を凌駕し始めている。

この現象が今、頭脳労働が上で、肉体労働は下であると見る伝統的な中国の価値観を直撃しているのだ。

加えて国家資本主義による巨大国営企業の台頭のため、かつては低給料であった国営企業の待遇が大幅に改善し、福利などを換算すれば外資系と遜色ないレベルに達している。“黑领”という別の意味で“白领”の対極に位置する階層が取りざたされるほどだ。

これに対して、ネットでは収入要件が大幅に引き上げられた“新白领标准”(新しいホワイトカラーの規準)なる指標が流布されるなど、“白领”のステータスを取り戻そうとする動きも見られる。

中国人の価値観を体現する“白领”の防衛戦が始まったようだ。

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